想像を絶する経験で身についたサバイバル能力
また、西欧の先進国であっても、サバイバル能力を求められる大変な思いをすることがありました。
2007年11月、私がパリのOECD(経済協力開発機構)で仕事をしていたとき、一斉ストが起こったことがあります。
その結果、渋滞のため、会社に2、3時間かけて通勤する人や、諦めて休暇を取ってしまう人が続出。私自身も、やっとのことでタクシーを見つけたものの、渋滞がひどくて一向に車が進まないので、あきらめて零度以下のパリを何時間も歩きまわったこともありました。また、仕事のアポはよっぽど重要ではない限り、キャンセルするしかありません。
このような大規模のストが、なんと3週間も続いたのです。日本では想像できませんが、先進国であるフランスでも、このように大変な不便さを強いられることがあります。
ただし、どんな環境に置かれようと仕事の責任をまっとうしなければいけないということは、フィジー共和国やソロモン諸島で働いたときに強く感じました。
私は、IMF(国際通貨基金)の技術支援の一環として、現地の中央銀行に対する外貨資産運用のテクニカルアドバイザーをしていました。どちらの国もこれからの発展を目指していた国。また、そのときのソロモン諸島は内戦直後でもあります。とても治安が良い状況とは言えず、生活環境も決して整っているわけではありませんでした。
ホテルの部屋で夜中に目を覚ますと、5センチはあろうかという蜘蛛がベッドの下を這っていたり、朝起きると、部屋の床が蟻で真っ黒になっていたり。ホテル内にもかかわらず、日本ではあり得ないような生活を余儀なくされます。
そのうえ、現地の銀行スタッフに講義を行いながら、2週間という限られた時間内に問題を分析し提案書を提出する必要があり、業務もけっして楽なものではありません。プロジェクトを終えると病気になってしまうほどのストレスを感じていたのです。
しかし、すべてが整っていて当たり前の環境で働いていた私にとって、この経験によって「やればできるのだ」という自信がついたことも事実です。
新しい仕事に挑戦したり、新しい土地で働くとき、最初は誰でも苦労の連続です。しかし、その最初のハードルさえ乗り越えることができると、自然と耐久力はついてきます。
また、その過程でした苦労というものは、絶対に糧になり、2度目はそれほど苦痛に感じないでしょう。これは、自分自身の経験から間違いなく言えることです。
さらに、自分を成長させてくれるものは、経験した苦労だけに留まりません。新たな環境に身を置くことは、今までとは違った新しい経験、考え方を学ぶことができることでもあるのです。それによって、より一層、変化に順応できる人間として成長していくでしょう。
安全で快適な日本を離れることを躊躇する気持ちも理解できますが、新しい環境に飛び込むことによって適応力を身につけることも、変化の激しいこれからの時代には必要な能力だと思います。
次回更新は、8月13日(火)を予定。
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