海運激変! トランプ関税下の暗夜航路#4Photo by Yoshihisa Wada

コロナ禍以降も好調が続く海運業界。業界2位の商船三井は、当初計画していた3年で1.2兆円の投資を1.8兆円に引き上げるなど、事業規模拡大に積極的だ。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#4では、橋本剛社長が大胆な投資戦略の狙いと、成長の鍵を握るマーケット、そして注視しているライバルを赤裸々に語った。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)

トランプ関税で逆風の海運業界
エネルギー事業で突破口を開けるか

――2025年3月期の決算は増収増益の一方で、26年3月期は64.3%の減益見通しです。大幅な減益をどう受け止めていますか。

 25年の3月期は、いろいろな要素が重なり、良い市況をエンジョイできたので、われわれの財務的な実力からすると、予想を大幅に上回る業績でした。イエメンのフーシ派のテロの関係で、スエズ運河や紅海を通れなくなり、船舶の需給が逼迫したことが最大の要因です。

 また、ロシアに対する経済制裁が続いています。欧州では中東や北米からエネルギー輸入が増加し、逆にロシアで余った天然ガスや石油をインドや中国が輸入しました。その結果、タンカーやガスキャリアの配船形態が変わり、エネルギー事業を強みとする商船三井にとっては極めてプラスに働きました。

 一方で26年3月期はこうした状況に変化の兆しがあります。紅海でフーシ派のテロが下火になり、恐らくどこかのタイミングで運航再開を見通せる。海運市況はノーマルな状態に戻るでしょう。

 しかし、米国・トランプ大統領の関税政策がマーケットを引っかき回し、最終的な着地点が読めない。今の状態が長く続くと、非常に大きなマーケットである米国だけでなく、アジア各国、欧州にも消費や投資の冷え込みが拡大する恐れがあるので、26年3月期は25年3月期から一転し、厳しい状態になると考えている。

 こうした要素を踏まえ、今期の当期純利益は1700億円になる保守的な見通しを発表しました。ただし過去の事例では経済制裁や関税政策が業績にプラスに働くこともありました。逆に下振れする可能性もないとはいえないので、実態に即した形で修正をしていくつもりです。

――どの事業でプラスに転じる可能性があると考えていますか。

 関税政策により米国から中国へのLNG(液化天然ガス)の輸出が阻害されて、インドなど別の地域に物が流れていくとすると、輸送距離が伸びるので、海運の需要を押し上げる可能性があります。エネルギー事業は船隊規模も大きいですし、トレードパターンが変化しても柔軟に対応できる余地が十分にあるので、ぜひ需要を取り込んでいきたい。

――エネルギー事業は、25年3月にオランダのLBCタンク・ターミナルズを2600億円で買収しました。

 コロナ前なら2000億円を超える投資は、商船三井の規模からすると考えにくかった。

 しかし現在は幸いにしてキャッシュが蓄積されているので、長期的な成長戦略と合致すれば、今後もケミカル関係、LNG関係は思い切って投資を継続していきたい。

――エネルギー事業への投資を積極的にしていきたいとのことですが、橋本社長が一番期待を寄せているプロジェクトを教えてください。

次ページでは、橋本氏が成長の鍵を握るマーケット、そして「非常に恐ろしい」と見なす意外なライバルの存在を明かす。