私たちは、仕事でも社会でも「課題を解決すること」を重視してきた。だが、本当に大きな変化は、目の前の問題をなくすだけでは起きない。「概念シフト」は、新たな価値を生む一方で、思いもよらない課題まで生み出す。その違いを、『概念シフト』から紹介する。
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不都合な課題も生む「概念シフト」
概念シフトとは、ある対象のイメージが大きく変化し、「既存の当たり前」が、「新しい当たり前」へと塗り替わる現象を指す。この変化が個人にとどまらず、特定の集団や社会全体にまで波及すると、当初はまったく想定していなかったような「新しい現実」が生まれる。
概念シフトは「新たな課題を生み出す」という特徴がある。この特徴を、私たちの馴染み深い「課題解決」とともに考えていこう。
製品開発や、組織変革、政府の政策は、いずれも何らかの課題の解決を目指すことが大半だろう。他方で、概念シフトは、顧客の課題や社会の課題など、私たちが重要だと考える目下の課題を解決すると同時に、まったく別の不都合な課題も生み出しうる[※1]。
「子ども」のイメージの変化
日本では親にとって「子ども」は、現在でこそ「良い人生を歩んでもらうために長期的に(大学卒業期まで)育て上げるもの」というイメージがあるだろう。しかし、かつて一部の国や地域では、「子ども」は、家計や共同体の存続にとって大事な労働力・後継者としてイメージされていた[※2]。そのため、必要最低限の教育を行い、幼少期から家計を支えるために働いてもらう存在だった。日本では幼い頃から丁稚奉公に出したり、産業革命後のイギリスでは炭鉱などの劣悪な環境で子どもが酷使されることもあった。
しかし、18~20世紀頃にかけて、乳幼児死亡率が低下し、子どもの人権に関わる制度が整備され、産業構造も農耕から工業、知的労働へと転換していった。これらの変化に伴い、子どものイメージは「労働力を提供するもの」から「長期育成するもの」あるいは「かけがえのない存在」に徐々にシフトした。
この子どもの長期育成・投資のイメージは、学校や塾、大学などの巨大産業の成立とも深く関係しているだろう。
他方で、子どものイメージが大きく変わった結果、新たな課題も生まれている。受験が人生を大きく左右するかのように感じられる社会的風潮の中、過度な教育競争や教育虐待、受験の失敗による挫折感、教育費負担の増大などが問題となっている。さらに、子育てに必要な時間や費用が大きく見積もられるようになったことは、少子化をめぐる不安の一因にもなっている。
このように特定の対象のイメージが大きく変わることで、ビジネスでは巨大な産業が成立したり、あるいは既存産業に大きな脅威が訪れたりするかもしれない。社会全体からみれば、概念シフトによる新しい現実は、既存の何らかの課題を解決する場合もあるが、副次的に新しい課題や問題が生まれてしまうこともある。
課題解決との大きな違い
概念シフトと課題解決の違いを例えるなら、課題解決が「既存の生態系を維持するために、害虫を駆除すること」だとすれば、概念シフトは「その生態系にまったく新しい種を持ち込むことで生まれる、新しい生態系への変化」のようなものだ。
持ち込まれた新種は、イノベーションや政府の政策に相当する。新しい生態系では、既存の食物連鎖や力関係を根底から覆すものになるかもしれない。ある種にとっては新たな食料となり、ある種にとっては天敵となりうる。良くも悪くも大きな変化が訪れる一方で、新しい生態系にはこれまでとはまったく異なる課題が生じる。
例えば、スマートフォンやSNS、生成AIの登場は、いずれも既存の生態系に新しい種が持ち込まれ、生態系をまったく変えてしまったイノベーションとしてみなせるだろう。スマートフォンは、携帯電話のイメージを刷新し、SNSは有名人の評価イメージを刷新した。生成AIは、まだ変化の過渡期だが、少なくとも検索のイメージや知的作業のイメージを世界規模で変えつつある。
他方で、スマートフォンやSNSの普及によって、他者と自分を比べやすくなり、幸福度が下がったり[※3]、集中力が途切れやすくなる問題が指摘されることもある[※4]。また、生成AIの登場で人々の学びが深まりづらくなるなど、新しい問題が生まれている[※5]。
注1 技術が問題を解決する一方で、当初の目的を損なうような予期せぬ副作用をもたらす現象は、「リベンジ効果」と呼ばれる。 Tenner, E. (1996). Why things bite back: Technology and the revenge of unintended consequences. Alfred A. Knopf.
注2 Zelizer, V. A. (1985). Pricing the priceless child: The changing social value of children. Basic Books. Bandelj, N., & Spiegel, M. (2023). Pricing the priceless child 2.0: Children as human capital investment. Theory and Society, 52, 805-830.
注3 Orben, A., & Przybylski, A. K. (2019). The association between adolescent well-being and digital technology use. Nature Human Behaviour, 3(2), 173-182.
注4 Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140-154.
注5 Bastani, H., Bastani, O., Sungu, A., Ge, H., Kabakc●i●, ●O●., & Mariman, R. (2025). Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences, 122(26), e2422633122.







