米オープンAIのサム・アルトマンCEOとスペースXのイーロン・マスクCEO Photo:JIJI
世界のAI覇権を争っているのは、オープンAI(OpenAI)やアンソロピック(Anthropic)、イーロン・マスク氏率いるスペースX(SpaceX)など、世界でも屈指の頭脳と資金力を持った組織です。彼らの動きを見ていると、AIモデルの性能や計算資源、資金力といった合理的な要素だけで勝敗が決まっているように思えるかもしれません。
しかし、その舞台裏をたどっていくと、驚くほど「人間臭い」事情が見えてきます。2026年8月、マスク氏率いるスペースXは、ある新興AI企業を600億ドルで傘下に収めました。その約2週間後、オープンAIは同社へのAIモデル提供契約を終了する方針を表明。一方、オープンAIと競合するアンソロピックは逆に関係強化へと動きます。なぜ1社をめぐって巨大AI企業の対応がここまで分かれたのでしょうか。
背景には、マスク氏とオープンAIのサム・アルトマンCEOの長年にわたる対立、そしてオープンAIを飛び出したアンソロピックのダリオ・アモデイCEOとの複雑な関係があります。「誰と組むか」だけでなく、「誰とは絶対に組みたくないか」。そんな創業者たちの感情まで理解すると、AI業界の勢力図がまったく違って見えてきます。(長野 泰和 ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー、構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)
マスクとアルトマンは「めちゃくちゃ仲が悪い」
今回のニュースでまず押さえておきたいのが、イーロン・マスク氏とサム・アルトマン氏の関係です。
マスク氏はオープンAIの共同創業者の一人ですが、その後オープンAIを離れ、アルトマン氏らとの対立は訴訟にまで発展しています。
2人は単なるビジネス上のライバルではありません。かなり昔から人間関係が悪化していて、事実上の絶縁状態が続いていることは有名な話です。
そこに今回、マスク氏率いるスペースXがある重要なAI企業を買収しました。するとオープンAIは、その企業へのモデル提供を打ち切る方針を示しました。
公式には契約や利用規約を巡る問題です。もちろん企業経営を「アイツが嫌いだから」の一言で片付けるのは乱暴でしょう。
ただ、これまでのマスク氏とアルトマン氏の関係を知っていれば、今回の判断を純粋な経済合理性だけで見るのも無理があります。
長野 泰和ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー
KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。KVPでは5年間で80社以上のスタートアップへ投資。2020年12月ANOBAKAを設立。
「敵の敵は味方」で動くアンソロピック
さらに面白いのがアンソロピックです。
CEOのダリオ・アモデイ氏は、もともとオープンAIにいた人物です。しかし、AIの安全性や会社の方向性などを巡る考え方の違いからオープンAIを離れ、アンソロピックを立ち上げました。
つまり、アモデイ氏もアルトマン氏とは距離がある。
そのため今回、オープンAIがスペースX傘下となった企業との関係を切る方向に動く一方で、アンソロピックは逆に関係を維持・強化する姿勢を見せています。
私にはこれが「敵の敵は味方」という構図にも見えます。
もちろんアンソロピックにもビジネス上の合理性はあります。ただ、シリコンバレーでは創業者自身の思想や過去の人間関係が、会社の提携戦略にまで影響することがあります。
AI業界は最先端のテクノロジーを扱っていますが、それを動かしているのは結局、人間ということです。







