司馬懿は、最初から魏を乗っ取り、自らの一族による新王朝を築こうとしていたのか。のちに司馬氏が実権を握り、孫の司馬炎が晋を建国したという「結果」だけを見れば、そう考えたくなる。だが、歴史を結果から逆算すると、大切なものを見落としかねない。司馬懿から司馬師、司馬昭へと権力が受け継がれるなかで、いったい何が変わったのか。新刊『地図で学ぶ深読み世界史』の著者が、司馬氏による魏の「乗っ取り」を、一人の天才的陰謀ではなく、権力が積み重なっていく過程から読み解く。
司馬懿を「最初からの陰謀家」と見ると、歴史を見誤る
司馬懿という人物を見るとき、よく語られるのが「最初から魏を乗っ取るつもりだったのか」という問題である。曹操の時代から続いた魏の政権に仕えながら、最後には司馬氏が実権を握り、その孫の世代には晋が成立する。その結果だけを見れば、司馬懿は最初から王朝簒奪を狙っていたようにも見える。
しかし、歴史は結果から逆算すると単純になりすぎる。司馬懿に大きな野心があったことは間違いないとしても、「自分の一族で新王朝を作る」と最初から決めていたかどうかは別問題である。
魏の運命を変えたのは、司馬懿より「息子たち」だった?
興味深いのは、むしろ息子たちの代だ。司馬懿が高平陵の変で曹爽を排除し、政権の主導権を握ったあと、その基盤を引き継いだ司馬師は、反対派の排除を進めながら司馬氏の支配をさらに強めていく。そしてその流れは弟の司馬昭へ受け継がれ、最終的には司馬炎による晋の建国へつながった。
つまり司馬氏の王朝簒奪は、一人の天才的陰謀家が最初から描いた計画というより、父から子へ権力が継承されるなかで、選択肢が少しずつ変わっていった過程として見る方が面白い。父の代では「政敵を倒して政権を握る」だったものが、子の代では「魏そのものをどうするか」という問題に変わる。
この見方をすると、司馬懿の人物像も少し変わってくる。最初からすべてを計画していた怪物として見るより、その時々の危機に対応しながら権力を握り、結果として息子たちに巨大な遺産を残した人物と考えた方が現実的だ。
王朝交代は、ある日突然始まるわけではない。政敵を倒す、軍を握る、人事を支配する。その一つ一つが積み重なり、やがて「もう元には戻れない」となる。司馬氏の台頭は、「野心の物語」以上に、「権力が自己増殖していく物語」として読めるのである。
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第2章 ホルムズ海峡、「オイルロード」の起点
第3章 アフリカの角、海上交通の大動脈を巡る戦い
第2部 北西航路――世界地図を塗り替える北極海
第1章 第三の航路を求めて――後発諸国の挑戦
第2章 科学と冒険 19~20世紀の偉業と悲劇
第3章 北極海航路 アメリカ、ロシア、中国の暗闘が始まる
第3部 アルプス交通路――近代欧米を読み解くためのスイス
第1章 スイスの歴史 ヨーロッパ屈指の経済圏
第2章 軍事強国と宗教改革 資本主義が生まれた瞬間
第3章 海を渡ったカルヴァン派とアメリカの宗教政治
第4部 巡礼交易路――十字軍とヨーロッパ拡大の原点
第1章 巡礼 十字軍と中世経済を支えたもの
第2章 北方十字軍 「ヨーロッパ」の東方拡大
第3章 東方植民とダンツィヒの悲劇
第5部 シルクロード――「帝国の墓場」アフガニスタンの宿命
第1章 ラピスラズリ 世界を魅了したアフガニスタンの「青」
第2章 シルクロードの中継地 アフガニスタン
第3章 アフガニスタンのイスラーム化
第4章 アフガニスタン王国の夜明けとパシュトゥーン人
第5章 アフガニスタンをめぐる帝国の攻防
第6章 二度の世界大戦と王政の崩壊
第7章 帝国の墓場、アフガニスタン
第6部 内陸交通路――もう1つの東南アジア史を読む
第1章 東南アジアの隠れた要衝、ラオス
第2章 第2次世界大戦とベトナム戦争
第3章 ラオス再評価「一帯一路」の中継点として
第7部 大河と資源――コンゴが変えた世界史
第1章 コンゴ王国 奴隷貿易が変えた中部アフリカ
第2章 コンゴ探検が生んだ植民地支配とウラン資源
第3章 コンゴ動乱 独立が生んだ冷戦と資源紛争