球速アップにつながるのは
「地面を強く踏む力」だった
そこで、私はトレーニングコーチとしての立場から、彼に投球の原理を説明しました。あくまでも力学の話であり、技術指導ではありません。
速い球を投げるには、もちろん腕を高速で振る必要があります。しかし重要なのは「どうすれば腕を高速で振れるか」です。その原理の1つが「どれだけキャッチャー方向に自分の体を高速移動させられるか」にあります。たとえば、時速60kmで走るオープンカーから時速80kmの球を投げれば、球速は140km/hになります。自分の体そのものを速く前方へ動かせれば、腕も球もその速度に乗るため、第一段階として球速向上にプラスに働くのです。
では、どうすれば体を高速移動させられるか。ここで重要になるのが、軸足(右投げなら右足)でどれだけ強く地面を踏み込み、蹴り出せるかです。地面を強く踏む力が強いほど、体は速くキャッチャー方向へ進みます。
ここであらためて、力学的な投球の原理をまとめるとこうなります。
(1)軸足(右足)で地面を強く踏み込み、キャッチャー方向へ体を加速させる
(2)体の移動速度と腕の振る速度が加算され、腕の振りが加速する
(3)腕が速く振れれば、放たれる球も自動的に高速化する
(4)つまり「地面を強く踏み込む力」が、球速を上げるための大きな要素である
そして私は彼にこう伝えました。
「スクワットは単に重いものを上げる作業じゃない。自分の体重にバーベルの重さをプラスした負荷で、足裏で地面を強く踏み込む能力を養うトレーニングなんだよ。その能力が上がれば、結果として君はもっと速い球が投げられるようになる」
説明なしでスクワットを続けても、筋肉はついたでしょう。けれども、それでは「球速アップ」という目的に正しくエネルギーを注ぐことはできません。ただの「義務」になってしまいます。
「何のためにやるのか」
「これをやると自分にどんな変化が起きるのか」
これが明確になれば、意識と行動のレベルは確実に変わります。それ以来、彼はすべての練習に「なぜ」を求めるようになり、今や彼の知識と思考はプロのトレーナー顔負けのレベルに達しています。







