タイパが重視される現代。しかし、斬新な事業アイデアは効率的な情報収集ではなく、対象に深く没入する空白の時間から生まれます。「批評の神様」小林秀雄は、モネの傑作「睡蓮」とどう対峙し、本質を見抜いたのでしょうか? 著書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』をもとに、ビジネスを勝ち抜くための「深い観察力」と、対象の奥底に潜り込む「没入力」の磨き方に迫ります。

【批評の神様】小林秀雄に学ぶ…ビジネスを勝ち抜く最強の力・ベスト1イラスト:塩井浩平
小林秀雄(こばやし・ひでお 1902~1983年)
東京生まれ。東京帝国大学文学部仏文科卒。代表作は『様々なる意匠』『無常といふ事』『モオツァルト』など。近代日本文学の発展に大きく貢献した文芸評論家。日本ダイヤモンド株式会社を設立した技術者・小林豊造の長男として生まれる。父がヨーロッパ土産で買ってきたレコードなどの影響で、学生時代から音楽が好きだった。昭和4(1929)年、総合雑誌『改造』の懸賞評論に応募した『様々なる意匠』が入選。これを皮切りに、文学のみならず、絵画や音楽、骨董品などさまざまな対象を評論した。その功績により昭和42(1967)年、文化勲章を受章。昭和58(1983)年に肺炎により81歳で死去。

ビジネスで本質を見極める「没入力」

タイパ(タイムパフォーマンス)や効率化ばかりが重視される現代。しかし、新しい事業アイデアや企画の本質は、効率的な情報収集からではなく、ひとつの物事に深く没入する時間から生まれるものです

「批評の神様」こと小林秀雄が、モネの傑作「睡蓮」とどう対峙したのかを紐解きながら、ビジネスパーソンに必要な「深い観察力」と「思考のノウハウ」を学びましょう。

作者の「眼の中」に入るほどの圧倒的な共感力

小林秀雄は、パリのオランジュリー美術館で巨大なモネの「睡蓮」を鑑賞した際の体験を、著書の中で次のように綴っています。

パリのオランヂュリイ美術館に、その最後の八つの大壁画がある。楕円形に作られた二つの大広間の四方の壁に描かれた池は、真夏の太陽にきらめき、千変万化する驚くべき色光を発している。まん中に立って、ぐるりと見廻すと、光の音楽で、身体がゆらめく様な感じがする。これは自然の池ではない。誰もこんな池を見た事もないし、これからも見る人はあるまい。私はモネの眼の中にいる、心のなかにいる、そして彼の告白を聞く。(中略)【『近代絵画』(新潮文庫)】
――『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』より

絵画を単なる「美しい風景」として消費するのではなく、作者の「眼の中」や「心の中」に入り込むほどの深い共感。

ビジネスにおいても、顧客の抱える課題やプロジェクトの背景を理解する際、この「相手の視点に完全に憑依する」というアプローチは、表面的なデータを分析する以上の深いインサイト(洞察)をもたらします。