ヒグマの生息域では丸腰での
単独行動はリスクが大きすぎる

 被害に遭った大学生の所持品の中に、クマよけの鈴やホイッスル、クマ撃退スプレーは確認されませんでした。現場は急斜面に挟まれた険しい沢の中であったことから、ヒグマに襲われてから発見までの間に失われた可能性があるものの、大学生は単独行動で、クマ撃退スプレーなどを携帯していなかったのかもしれません。

 3人の消防隊員が襲われた事故については、消防隊員たちが比較的軽傷であったことから、事故発生までの経緯が詳細に明らかになりました。被害者らはクマよけの鈴などの鳴り物を携帯し、複数人で行動していたにもかかわらず襲撃されています。また、彼らを襲ったヒグマにまったく興奮したようすが見られなかったことから、防御的な攻撃だった可能性は低いとみるのが妥当であり、ヒグマが積極的に人を襲撃した事例であったことは間違いないと考えられるでしょう。

 非常に危険な個体の襲撃に対して、複数人で行動していたことで応戦が可能となり、致命傷を防ぐことができました。また、攻撃を受けた2人はヘルメットを着用していませんでしたが、いずれも頭部を負傷しておらず、致命的なけがを負うこともありませんでした。襲撃時に非常に冷静に行動し、高い身体能力によって小さなナイフでも応戦できたことが、幸運にもヒグマの撃退につながったと考えられます。

『クマに出遭ってしまったら?』書影『クマに出遭ってしまったら?』(山崎晃司編著、PHP研究所)

 過去に北海道内で発生したヒグマによる人身事故のうち、行動人数が明らかな事例では、複数人で行動していた場合に死亡に至った事例は現在のところ確認されていません。また、北米の例では、自身を守るために野外でクマ撃退スプレーを使用した場合、ヒグマ、アメリカクロクマおよびホッキョクグマに対して9割を超える成功率でクマ類の望ましくない行動、たとえば物理的な攻撃やつきまとい、食物やゴミを得ようとする行動などを抑止できたことが報告されています。

 したがって、ヒグマの生息域における重大な人身事故を回避するためには、複数人で行動し、誰もがある程度の距離を保ったまま応戦することができるクマ撃退スプレーなどの装備を携帯することが重要だといえるでしょう。

 また、今回の事例には該当しませんが、誰かがヒグマに襲われたとき、早期に事故発生が把握され、情報を即座に共有することができれば、二次被害を防ぐことが可能となります。少人数でアウトドア活動を行なう際には、目的地やスケジュールを第三者に知らせておくなど、基本的な心がけを大事にしましょう。