佐藤優 知を磨く読書写真はイメージです Photo:PIXTA

最前線で働くビジネスパーソンが押さえておきたい、時代の変化とその背景を理解する上で欠かせない注目書籍を作家で元外交官の佐藤優さんが厳選する。クマの大量出没と事故多発は保護政策のせいなのか?現在の商社幹部にも継承されている愛国心とは?「更迭される悪い上司」と「出世する悪い上司」の決定的な違いとは?『家に帰ったらクマがいた』『財閥と閨閥』『特捜取調室』の3冊から「ここだけは読んでほしい重要な箇所」を紹介する。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

クマの大量出没と事故多発は
保護政策のせいなのか

 米田一彦著『家に帰ったらクマがいた』は、クマ問題を考える際の必読書だ。米田氏は、秋田県生活環境部自然保護課でツキノワグマ対策に従事してから50年以上、クマ研究に努めているこの分野の第一人者だ。現在は、日本ツキノワグマ研究所所長を務めている。

米田一彦著『家に帰ったらクマがいた』PHP新書、2026年4月刊行米田一彦著『家に帰ったらクマがいた』PHP新書、2026年4月刊行

〈私はクマを山に返す「奥山放獣法」を考案し、普及に努めてきた。手前味噌で恐縮だが、それによって助けられたクマの総数は推定1万頭近くになると思われる。とくに中部地方以西で多く行なわれ、多被害地の東北各県でも現在実施されている。

 今世紀初頭まで西日本各地でツキノワグマは孤立個体群化して、西中国・東中国地方、紀伊半島ではとくに絶滅の恐れが高く、緊急避難的手法だった。1990年代から西中国方式、兵庫県方式によって駆除と救助を並行して行ない、現在は適切な生息数に落ち着いている。人間の命を守るためにこそ、駆除一辺倒ではなく、生息数を保つことが重要なのである〉(197ページ)

 保護に転換したからクマが増え過ぎた、ハンターを抑圧したからクマを駆除する力が落ちたという見方に対して、米田氏はこう反論する。

〈西日本でのクマ絶滅を防ぎ、適切な生息数を保った。繰り返すが、これはクマを守るだけではなく、本来の生態系を維持することで人間の命を守ることにもつながる〉(200ページ)

 その通りと思う。クマを人間化して過剰な愛情を注ぐのでも、害獣は完全に駆逐して人間にとって100%安全な環境をつくるのでもなく、生態系の維持という観点からクマ問題に取り組んでいくというアプローチが、現時点で考えられる適切な方策と思う。

現在の商社幹部にも
継承されている愛国心

 菊地浩之著『財閥と閨閥』を読むと江戸時代には社会的地位が低かった商人が、明治以降、国策と結び付いて急速に拡大していった過程がよく分かる。大日本帝国の歴史は、そのまま財閥の歴史だったのである。