獰猛な様子で口を大きく開けるクマ写真はイメージです Photo:PIXTA

「市街地に迷い込んだだけ」とは限らない――。人を恐れず、ゴミをあさり、人の食べ物を「エサ場」として覚えたヒグマは、別物の危険性を持つ。2025年、北海道福島町では、そんなヒグマが市街地で新聞配達員を襲い、命を奪った。しかも、この個体には4年前にも人を襲った過去があった。なぜ人里に居着くヒグマは、これほど危険になるのか。「人慣れ」と「食物条件付け」の恐ろしさを読み解く。※本稿は、動物生態学者の山崎晃司氏の編著『クマに出遭ってしまったら?』(PHP研究所)のうち、野生動物管理研究者の釣賀一二三氏による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。

住宅街で新聞配達員が
ヒグマに襲われた

 2025年7月12日未明、北海道松前郡福島町の市街地でヒグマによる人身事故が発生しました。被害者は新聞配達中の男性で、事故現場は福島町役場から直線で600mほどの、周囲を住宅に囲まれた民家の敷地内でした。

 渡島半島の南西側にある松前半島の南端近くに福島町は位置しており、役場が所在する中心部市街地は津軽海峡に面した南東側をのぞくとまわりを森林に囲まれています。森林はヒグマの生息地となっており、森林に接するエリアでは毎年ヒグマの出没が確認されていましたが、前年までは市街地に侵入するような事例は発生していなかったといいます。しかし、この年、町内では、事故発生の数日前から市街地を徘徊するヒグマが目撃されており、ゴミ箱が荒らされる被害が何度か発生していました。

 事故当日の午前3時前、外から聞こえる物音に気がついた住民が玄関先の風除室に出たところ、目の前で新聞配達員がヒグマに襲われているのを目撃しました。ヒグマは、そのまま被害者を引きずっていってしまったといいます。被害者は近くにある100m四方ほどの草やぶに引き込まれたとみられ、事故発生からおよそ2時間後、捜索していた捕獲従事者によって草やぶの中に倒れているのが発見されました。

 被害者が発見された際、草やぶの中を逃げる加害個体と思われるヒグマが目撃されました。草やぶ内における捕獲作業や、周辺エリアを対象とした捕獲従事者の見回りが当日の午前中からすぐに始まり、出没現場付近には箱わなが設置されました。しかし、その後もヒグマによるゴミ集積倉庫などへの被害が続きます。

 事故発生から6日後の7月18日未明、市街地に現れたオスのヒグマが捕獲されました。捕獲されたヒグマのDNAと、被害者の服についていたヒグマの体毛のDNAが一致したことで、新聞配達員を襲ったヒグマが捕獲されたことが明らかになり、事件は終息を迎えたのです。

市街地への「迷い込み」とは
違う行動をとっていた

 2010年代後半以降、北海道では何度かヒグマが市街地に入り込んだ事例が発生していました。多くの場合、移動しているうちに市街地に迷い込んでしまったものとみられています。2019年12月に帯広市の小学校の校庭に侵入した事例や、2020年に旭川市の市内を流れる複数の河川の河畔林やJR旭川駅裏にヒグマが居座った事例などがそれに該当すると考えられています。

 人身事故に至った事例としては、2021年6月に札幌市東区の市街地で4人が負傷した事例が挙げられます。あたりが暗い時間帯に水路などを伝って移動したヒグマが市街地に迷い込んだあと、警戒する関係車両などに追い回されて半ばパニック状態になり、人を襲ったと考えられているものです。