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屈強な3人の消防隊員が声を上げ、火薬銃を鳴らしても、ヒグマは逃げなかった。唸り声や威嚇もせず、ゆっくりと距離を詰め、わずか1mまで近づいたところで突然、1人に突進したのだ。なぜ、このヒグマは人を襲ったのか。北海道で起きた異例の事故から、ヒグマの危険な行動と、3人が生還できた理由を読み解く。※本稿は、動物生態学者の山崎晃司氏の編著『クマに出遭ってしまったら?』(PHP研究所)のうち、野生動物管理研究者の釣賀一二三氏による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。
声にも火薬銃にも反応せず
ヒグマが近づいてきた
2023年10月31日、北海道松前郡福島町の大千軒岳を登山していた3人の消防隊員が、登山道上で休憩していたところ、下方から歩いて近づいてくるヒグマに遭遇しました。現場は登山口から3時間ほど登った地点の尾根上で、頂上に向かって左側は緩やかな下り斜面、右側は沢底に向かう急勾配の斜面です。
3人は登山道の下方に向かって横に左からA氏、B氏、C氏と並ぶような形で立っていましたが、およそ10mほど先に、歩み寄ってくるヒグマがいることに気がつきました。3人で声を出し、1人が持っていたおもちゃの火薬銃(音が出るもの)を鳴らしましたが、ヒグマは無反応でゆっくりと接近してきます。この間にもっとも右側にいたC氏が腰につけていた刃渡り10cmほどのナイフを右手に構えました。
ヒグマは3人から2.5mほどの距離で一旦立ち止まった後、再び接近してきました。このときヒグマに興奮したようすはなく、唸り声を出したり威嚇したりするようすも見られなかったといいます。3人まであと1mの距離になったところでヒグマは急に突進し、中央にいたB氏に体当たりしました。両者は頂上に向かって左側の緩やかな斜面を転げ落ち、ヒグマはB氏の上に覆いかぶさりました。
ナイフを持っていたC氏が駆け寄ると、ヒグマが顔を向けたため、C氏はヒグマの右目をねらってナイフを突き立てました。しかし、鼻の付け根付近の骨に当たりはじかれてしまいます。ヒグマはC氏の左足ふくらはぎを払い、C氏が背中から倒れ込んだところへ乗りかかろうとしてきました。C氏はとっさに左足をヒグマの首のあたりに当てて突っ張ることによって攻撃を防ぎました。そして、その足を外して落下してきたヒグマののど元にナイフを突き刺したところ、ヒグマは勢いよくあとずさりしたのです。
このとき、C氏はナイフを手から放しており、ヒグマにはナイフが突き刺さったままの状態でした。3人が声を出して足で蹴る動作をしたところ、ヒグマは彼らに背を向けて斜面を歩いて下って行きました。3人はその後、自力で下山し、病院を受診しました。
捜索2日目にクマの死体と
大学生の遺体が見つかった
当日の19時30分頃、事故発生の通報を受けた警察がほかの登山者の有無を確認するため登山口に向かったところ、無人の車両を発見し、翌日から捜索が行なわれることになりました。捜索2日めの11月2日、防災ヘリが、登山道の山頂に向かって右側を流れる沢の右岸で、ヒグマの死体を発見。ヒグマはオスの個体で、右目の下に切り傷、首の左側には気管の裏に達する深い刺し傷が確認されたことから、3人の消防隊員を襲った個体である可能性が極めて高いと考えられました。







