国力を強くしないとならないという主張

「私もそれなりに忙しい。端的に用件を言いたまえ」

 長いこと連絡していなかった(名刺も探さないと出てこなかったくらい)のに、急に熱心に柳生と連絡をとる直美の調子の良さ。そういうことはよくあることだ。でもそれにしたって、「うちの生徒の実習を見に来ませんか」とはなかなかのお願いである。

「看病婦としての経験は十分なのに、年齢制限で看護学校には入れず、この規則で看護婦にもなれなかった生徒の実習です」

「私が?なぜ?」と当然柳生は戸惑う。

「現地調査です。柳生さん、多少の犠牲は仕方ないとおっしゃっていましたが、その多少の人たちを知っていただきたいんです」

 直美の強気な誘いに、柳生は平蔵(太田光)のところに見学へ。そしてなぜか囲碁の相手をさせられる。

 クールに振る舞っているが柳生は内心はきっとやさしい人。頼まれると断れない、やや流されやすい人。

 現地調査の帰り、チュウ(若林時英)の店で直美にぐいぐい説得されていく。

 柳生の作った看護婦の取締規則によって、真面目にやってきた人がはじかれる可能性があることを改善してほしいと直美は言っている。

 ツヤがかつて看病婦として帝都医大病院に勤めていたが、職場を追われ独学で11年かけて英語の本を読んだのだと直美はアピール。

 それにしても、貴重な英語の本にこんなに書き込んじゃっていて……、この本を見るたび、胸がキュッとなる。

 柳生の引いた線の外側にこぼれた「多少」の人たちの中には、彼女のような人もいると知ってほしいと言う直美。

 そのへんのことは柳生もわかっていて、スルー。

 だが柳生の妻の話を直美が知っている(ヒデから聞いたのだろう)ことには動揺する。柳生のシーン、基本真面目なトーンだが、ちょいちょい柳生のリアクションでおもしろく見える。

 直美は、妻を亡くした平蔵、夫を亡くした自分、そして妻を亡くした柳生と、同じ境遇であることをある意味利用して話を進めていく。相変わらず策士だ。

 柳生の妻は不衛生な環境によってチフスに罹って亡くなった。

「衛生局に勤めていながら不甲斐ない」。彼自身も伝染病に罹ったし、免疫力が低い夫婦だったのではないだろうか。

「私も同じなのでわかります」
「同じ?妻のような無駄な死と同じだというのか」

 直美は夫が戦争中の栄養不足による脚気で亡くなった。だから柳生の無念がわかるのだろう。ふたりの伴侶は死ななくても済んだのに死んでしまった。だからこそ、ひとりでも死なない人を増やすために優秀な看護婦が必要だ。

 だが、柳生が、ひとりでも死なない人を増やすには、違うことを考えている。

「私がどんな思いで働いているかといえば、この国を強くするためだ」
「国の力とは人の数だ。次に軍人の数、兵力だ。伝染病や脚気などで戦わずして兵力を失うような国は強くなれるはずがない」

 急に富国強兵的な考えを話しはじめた柳生を直美は「人でなし」となじる。

 伝染病や脚気などで戦わずして兵力を失うという言葉に、多くの無念の死を迎えた人たちがいることを思う。冒頭の子どもの石積みがやっぱり何かの追悼のように見えてきた。

「わからない」が近道に…人を成長させる“正しい恐怖”とは〈風、薫る第126回〉
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