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なぜ家具店は、買い物中の子どもを「60分無料」で預かるのか?Photo: Adobe Stock

家具を売る店なのに、
なぜ子どもを無料で預かるのか?

 ある家具店では、子ども向けの無料プレイルームがあります。条件を満たす子どもを対象に、1日1回、最大60分利用できます。

 お店も、「お子さまが遊んでいる間、ゆっくりお買い物をお楽しみください」と案内しています。

 普通なら、家具店は家具を売ることに集中したほうがよさそうです。それなのに、なぜ人員やスペースを使って、子どもを無料で預かるのでしょうか。

 販促の観点から見ると、これは、家具を安くするのではなく、「ゆっくり買い物できない理由」を無料で取り除く仕組みと考えることができます。

子ども連れでは、
「欲しい」より先に「早く帰ろう」が来る

 家具選びは、短時間では終わりにくい買い物です。

 ソファなら、「座り心地を比べる」「サイズを確認する」「色を見る」「家に置いた姿を想像する」。テーブルなら、「椅子との高さを見る」「家族の人数を考える」「部屋に入るか確認する」といった検討が必要です。

 ところが、小さな子どもと一緒だと、「疲れた」「お腹すいた」「もう帰りたい」となることがあります。

 すると親は、「もうこれでいいか」と急いで決めるか、「今日はやめて、また今度にしよう」と買い物自体を中断してしまいます。

 つまり家具店にとって問題なのは、商品の魅力が足りないことだけではありません。お客様が商品をじっくり検討できる環境がないことも、売れない理由になるのです。

60分あると、
「見るだけ」から「比較する」に変わる

 そこで、子どもを一定時間預かります。すると親は、「子どもを見ながら急いで回る」必要がなくなります。

 60分あれば、「ソファを何種類か座り比べる」「収納家具のサイズを確認する」「照明やラグまで見る」「スタッフに質問する」といった行動ができます。

 家具のような高額商品は、じっくり比較して納得できたほうが購入につながりやすくなります。

 つまり無料託児によって増やしているのは、単なる滞在時間ではありません。「商品を検討する時間」なのです。

滞在時間が伸びれば、
「予定外の商品」を見る機会も増える

 例えば、お客様が家具店へ来た目的が、「ダイニングテーブルを見る」だけだったとします。

 しかし時間に余裕ができれば、

 テーブルを見る
 ↓
 椅子を見る
 ↓
 照明を見る
 ↓
 食器を見る
 ↓
 収納用品を見る

 というように、売り場を広く見る可能性があります。

 最初は、「テーブルだけ」の予定だったのに、「この椅子も合いそう」「照明も替えたい」「この収納も便利そう」となれば、購入点数は増えていきます。

 このお店は、ショールームを歩きながら部屋全体のコーディネートを見る構成になっています。

 そのため、ゆっくり歩けることそのものが、新しい商品との出会いにつながります。つまり、時間の余裕が、ついで買いの機会を増やすのです。

値引きより、
「買いやすい環境」を作るほうが効く場合がある

 もし家族連れを増やしたいなら、「家具10%OFF」という方法もあります。

 しかし、いくら安くしても、子どもが泣いていてゆっくり見られなければ、買い物は進みません。そこで、商品価格ではなく、買い物を妨げている原因に対してサービスを提供します。

 例えば、お客様が感じている障害が、「高い」ではなく、「子どもと一緒ではゆっくり選べない」なら、値引きより無料託児のほうが効果的な場合があります。ここが重要です。

 販促というと、クーポン、割引、ポイント、プレゼントを考えがちです。しかし、お客様が買わない原因を取り除くことも立派な販促なのです。

子どもにとっても
「また行きたい」が生まれる

 これには、もう一つ面白い効果があります。それは、子ども自身がこのお店を好きになる可能性があることです。

 大人にとっては家具店でも、子どもにとっては、「遊べる場所」になります。すると次に親が「家具を見に家具店へ行こうか」と言ったとき、子どもが、「行きたい」と言うかもしれません。

 普通なら、子どもは家具選びについていきたくない存在です。

 しかし無料の遊び場を用意することで、買い物を邪魔する存在から、再来店を後押しする存在へ変えることができます。

 家族全体で来店しやすい場所にすることが、次の買い物にもつながるのです。

無料サービスなのに、
売上につながる理由

 無料託児そのものでは、売上は発生しません。むしろ、スタッフ、設備、運営費が必要です。それでも意味があるのは、無料サービスの目的が、「託児で儲けること」ではないからです。

 例えば、

 子どもを預かる
 ↓
 親がゆっくり店内を見る
 ↓
 比較・相談する
 ↓
 購入する
 ↓
 関連商品まで見る
 ↓
 また家族で来店する

 という流れができれば、無料託児は売上を生むための入口になります。

 つまり費用をかける場所を、商品の値引きではなく、買い物を止めている障害の解消に使っているのです。

他のお店でも使える
「買えない理由を無料で取り除く」設計

 この考え方は、家具店だけではありません。

・住宅展示場
 子ども向けの遊び場や見守りサービスを用意する。親が住宅設備や資金計画を落ち着いて相談できる時間を作る。

・自動車販売店
 商談スペースの近くにキッズコーナーを用意する。試乗、見積もり、オプション選びなど、高額商品の検討を途中で切り上げる理由を減らす。

・美容室
 子ども連れでも来店しやすいように、キッズスペースや見守り環境を用意する。「子どもがいるから行けない」を取り除き、来店頻度を維持する。

まとめ

 この仕組みを販促の観点から整理すると、

・子ども連れで「ゆっくり商品を見られない」という買い物の障害を取り除く
・家具を比較し、サイズや使い方を検討する時間を増やす
・滞在時間が伸びることで、関連商品や予定外の商品を見る機会を増やす
・値引きではなく、「買いやすい環境」を提供することで購入を後押しする
・子どもにも「家具店は楽しい場所」という記憶を作り、家族全体で再来店しやすくする

 という、「商品を安くして買わせる」のではなく、「買い物を途中でやめる理由」を無料で取り除くことで、購入しやすい状態を作る販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。