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なぜアパレルショップは、何度か履いたパンツでも裾直しを無料で受けるのか?Photo: Adobe Stock

買った後なのに、
なぜ無料で直してくれるのか?

 パンツを買ったあと、「もう少し短くすればよかった」「履いてみたら、いつもの靴には少し長かった」と感じることがあります。

 普通なら、購入するときに裾上げを頼まなかったのだから、「後から直すなら有料」でも不思議ではありません。

 ところがそのアパレルショップでは、購入後でも店舗で裾直しを受け付けています。

 なぜ、新しいパンツを売りたいはずのお店が、すでに買ったパンツを無料で直してくれるのでしょうか。

 販促の観点から見ると、これは、売った商品を少しでも長く使ってもらうことが、次の購入につながる仕組みと考えることができます。

小さな「合わない」が、
その商品を着なくする

 パンツは、試着した瞬間には問題なく見えても、実際の生活で履いてみると印象が変わることがあります。スニーカーならちょうどいいけれど、革靴だと少し長い。

 立っているといいけれど、歩くと裾を踏みそうになる。洗濯後に丈の印象が変わった。そんな、「返品するほどではないけれど、少し気になる」という不満です。

 こうした小さな不満が残ると、だんだん履かなくなります。すると、「あそこで買ったパンツ、結局あまり履かなかったな」という記憶だけが残ってしまいます。

 商品そのものに大きな問題がなくても、使わなくなったという事実が、ブランドへの評価を下げることがあるのです。

無料で直せると、
「失敗した買い物」が「お気に入り」に変わる

 そこで、「後からでも直せます」という出口を用意します。

 例えば、少し長かったパンツを無料で3cm短くしてもらい、履きやすくなったとします。すると、そのパンツは、「丈を失敗した商品」から、「自分にちょうどいいパンツ」へ変わります。

 お客様にとって大切なのは、最初から完璧な商品だったかどうかだけではありません。

 最終的に、自分が気持ちよく使えたかどうかです。買った後の小さな不満を解消することで、商品の評価そのものを後から高めることができるのです。

商品を長く使ってもらっても、
次の販売機会はなくならない

 一見すると、商品を長く使ってもらえば、買い替え時期が遅くなります。それなら、「少し合わなくなったら、新しいパンツを買ってもらったほうがいい」とも考えられます。

 しかし実際には、気に入らない商品を早く手放した人が、次も同じブランドを買うとは限りません。

 むしろ、「あそこのお店で買えば、後からでも調整してもらえる」「長く履けた」という経験が残れば、次のパンツを買うときに、「またあそこで買おう」という理由になります。

 つまり、一回の買い替えを早めるより、「次もあそこで買おう」という信頼を残すほうが、長期的には価値が大きい場合があるのです。

裾直しが、
もう一度店舗へ来る理由になる

 購入後の裾直しには、もう一つ大きな意味があります。それは、お客様をもう一度店舗へ戻せることです。

 パンツを買ったあと、何もなければ、次に店舗へ来るのが数カ月後になるかもしれません。

 しかし、「裾を少し直したい」となれば、もう一度店舗へ行きます。そのときに、新しいシャツを見る。靴下を見る。季節商品を見る。生活雑貨を見る。という新しい接点が生まれます。

 つまり無料の裾直しは、アフターサービスであると同時に、購入後のお客様を、もう一度売り場へ戻す来店理由にもなるのです。

お直し履歴まで、
次の購入を楽にする

 一部店舗では、アプリを利用すると、お直しの履歴を残せると案内しています。以前の寸法が分かれば、次に同じパンツを購入するときも、「前回と同じ長さで」と頼みやすくなります。これは非常に重要です。

 次の買い物で、また試着して、また丈を測って、また一から考える必要がありません。すると、他店で買うより、「自分のサイズを分かってくれているあのお店で買うほうが楽」となります。

 商品だけではなく、過去の購入・調整経験そのものが、次も同じ店を選ぶ理由になっていくのです。

「売ったら終わり」ではなく
「使い続けるところまで」が商品になる

 多くのお店では、商品を渡した瞬間に販売が終わります。しかしお客様にとっては、そこからが始まりです。

 買う
 ↓
 使う
 ↓
 少し不満が出る
 ↓
 調整する
 ↓
 気持ちよく使い続ける

 というところまで体験して、初めて、「良い買い物だった」と判断します。

 つまり裾直しは、パンツという「モノ」だけを売っているのではありません。自分に合った状態で長く使えるところまでを、一つの商品体験として提供していると考えることができます。

他のお店でも使える
「買った後の小さな不満を無料で直す」設計

 この考え方は、衣料品以外でも応用できます。

・メガネ店
 購入後、「少しずれる」「耳が痛い」という人に、無料でフィッティング調整を行う。使わなくなる理由を消し、次のメガネ購入にもつなげる。

・靴店
 購入後に、中敷きや靴ひもの調整、簡単なフィッティング相談を無料にする。「買ったけれど足に合わなかった」という失敗体験を減らす。

・家具店
 購入後に、棚板の高さ調整や簡単な設置相談などを行う。生活の中で使いやすい状態にすることで、次の家具や関連商品の相談先になる。

まとめ

 この仕組みを販促の観点から整理すると、次のような効果が考えられます。

・購入後に生まれる「少し長い」「ちょっと合わない」という小さな不満を解消する
・使わなくなる商品を、自分に合った「お気に入り」に変える
・商品を長く使ってもらうことで、「次もこのブランドで買いたい」という信頼を作る
・裾直しを理由に、購入後のお客様をもう一度店舗へ戻す
・過去の調整履歴を残すことで、次回購入時の手間を減らす

 という、「早く買い替えてもらう」のではなく、「買った商品を気持ちよく使い切ってもらう」ことで、次も同じブランドを選びやすくする販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。