仕事では、腹が立っても顔には出さず、つらくても「大丈夫です」と笑ってみせる。そんな「感じのいい人」ほど、知らないうちに自分を消耗させているかもしれない。実は、仕事でぐったりしないためには、いつでも平気なふりをする必要はない。研究から見えてきたのは、むしろその逆だった。では、感じよく働きながら、疲れをため込まないためにはどうすればいいのか。『体力がすべて』の著者、有好信博氏が、エビデンスをもとに紹介する。

「平気なふり」は封印!「感じのいい人」におすすめしたい、仕事でぐったりしない科学的方法Photo: Adobe Stock

感じよく振る舞ったあとは、いつもぐったり

 こんな日はないだろうか。顧客からの苦情に、電話で20分ほど対応しなければいけなかった。何度説明しても納得してもらえず、苛立ちは募ったが、最後まで穏やかな声で応じることができた。電話を切ったときには、自分を褒めてあげたいと思ったほどだ。

 しかし、その日は残業もせずに帰ったが、家に着くとぐったりした。結局、予定していた用事に取りかかる気にはなれなかった。

 仕事量が多かったわけではないのに、なぜこんなにもぐったりするのか。

 電話の間は、何をどう説明するかを考えながら、苛立ちが相手に伝わらないよう、声の調子や言葉遣いにも気を配っていた。けれども、落ち着いて話せていたのは、気持ちが落ち着いていたからではない。そう聞こえるように努めていたからだ。

腹立たしさを、「演技」で取り繕う

 先ほどの電話のように、苛立ちを隠して穏やかな声で応じることを、研究では「表層演技」と呼ぶ。相手にも事情があるのだろうと考えて、怒りを和らげようとするのとは違う。腹は立ったままだが、それを相手に見せないよう、声の調子や表情を変えているのである。

 こうした応対をした日は、仕事が終わったあと、どのくらい疲れを感じるのだろうか。米国のバス運転手78人を、2週間にわたって調べた研究がある。

 運転手には、勤務後に、その日どの程度、本当の気持ちとは違う態度で乗客に接したかを尋ねた。さらに夜寝る前には、精神的な疲れの強さや、仕事の疲れで家庭の用事に支障を感じていないかなどを答えてもらった。

 同じ運転手の日々の回答を比べると、普段より気持ちを装って乗客に接した日は、その夜に精神的な疲れを強く感じる傾向があった。前日の疲れ具合などを考慮しても、この傾向は変わらなかった。また、そうした日には、仕事の疲れで家でやるべきことに十分に取り組めないと感じる傾向も見られた(※1)。

いつまでも「感じのいい人」でいなくていい

 先ほどの電話では、説明を続けるだけでなく、苛立ちが声に出ないよう気を配っていた。こうした負担に対して、疲れてから休む以外に、できることはないだろうか。

 まず意識してほしいのは、丁寧に説明することと、いつでも明るく愛想よく振る舞うことは違う、という点である。電話応対を模した実験では、明るく振る舞い、苛立ちを見せないよう求められた人は、そうした態度を求められなかった人より、応対後の消耗感が強かった(※2)。

 苦情への対応でも、無理に明るく振る舞う必要はなく、落ち着いて事実と対応方針を伝えれば十分な場面もあるだろう。職場で応対のルールを決める際にも、説明の丁寧さだけでなく、必要以上に愛想のよさまで求めていないかを確認したい。

 また、電話を切ったあと、同僚の前でも何事もなかったように振る舞っていないだろうか。気軽に話せる相手がいれば、「今の電話はきつかった」と、起きたことやそのときの気持ちを聞いてもらうのも一つの方法だ。難しい電話への対応後に、起きたことや感じたことを人に話すことで、残っていた怒りが和らいだという実験もある(※3)。

 職場では、そうした話をしやすい雰囲気も大切にしたい。同僚や部下がつらさを口にしたら、「気にしすぎ」「それも仕事だ」と片づけず、どんなやり取りがあり、何がきつかったのかを聞いてほしい。穏やかに応対できたことだけを見て、本人の負担まで小さかったと決めつけないことである。

 顧客の前では抑えていた苛立ちや戸惑いも、応対を終えたあとまで隠し続けなくてよい。丁寧な応対を求める一方で、それを担った人が「きつかった」と話せることも、職場では大事にしてほしい。

【注釈】
1. Wagner DT, Barnes CM, Scott BA. Driving it home: How workplace emotional labor harms employee home life. Personnel Psychology. 2014;67(2):487-516.
2. Goldberg LS, Grandey AA. Display rules versus display autonomy: emotion regulation, emotional exhaustion, and task performance in a call center simulation. J Occup Health Psychol. 2007 Jul;12(3):301-18.
3. McCance AS, Nye CD, Wang L, Jones KS, Chiu C yue. Alleviating the burden of emotional labor: The role of social sharing. Journal of Management. 2013;39(2):392-415.