「言語化力が大事」「考えを言葉にできる人が強い」。ここ数年、やたらと「言語化」が求められるようになりました。でも、なぜ私たちはそこまで言葉にする必要があるのでしょうか。その背景には、「誰とでも話さなければならない」という社会人特有の事情があります。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

なぜ急にみんなが「やたら言語化、言語化」と言い出したのか?

学生時代は「話したい人」と話せばよかった

 学生時代を思い出してみてください。

 仲のいい友人なら、多少説明が足りなくても話は通じます。

「あれ、どうだった?」
「ヤバかった」
「やっぱり?」

 こんな会話でも成立します。
 お互いが知っていることが多いからです。

「話したくない人と話さなければいけない……」
そんな環境自体が精神的な負担になります。
だから学生には「社会に出たくない」と感じる人がいるのでしょう。
学生時代は仲間と楽しくおしゃべりするという状態こそが通常モードだからです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 ところが、社会人になると一変します。

 知らない人、年齢の離れた人、価値観の違う人、苦手な人。
 そういう相手とも話さなければ仕事になりません。

 つまり、「気の合う人と話す」から、「誰とでも話す」への強制的な切り替えが起こるのです。

そこで「言語化」が必要になった

でも、仕事を意識しはじめると突然、「誰にでも伝わるように話さなければ」と焦ることになります。
これも世の中で「言語化」のスキルが求められるひとつの要因ではないでしょうか。
社会人は誰とでもうまく話せることが期待されているからです。
SNSでの発信も、それを読む「みんな」に伝わる誤解のない伝え方が求められます。
でも、コミュニケーションは相手によって変わるものです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 仕事では、「察して」は通用しにくくなります。
 上司にも、部下にも、取引先にも、自分の考えを説明しなければならない。

 さらにSNSでは、もっと極端です。
 自分のことをまったく知らない「みんな」に向かって発信することになります。

 そこで求められるのが、「誰が読んでもわかる言葉」です。

「もっと正確に」
「もっとわかりやすく」
「誤解されないように」

 その要求が強くなるほど、「言語化力」が重要なスキルとして注目されるのは自然な流れでしょう。

「誰にでも伝わる」は仕事の都合

 では、なぜ仕事では「誰にでも伝わること」がそこまで大切なのでしょうか。

誰にでも伝わる話し方を要求される理由は、業務の効率化にあります。
みんなに伝わる話し方なら、一度の伝達で済み、業務効率が上がります。みんなに伝わる話し方は、業務上のニーズなのです。
でも、果たして、そんなことは可能なのでしょうか?
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「誰にでも伝わる言葉」は、人間のコミュニケーションにとって理想だから求められているとは限りません。
 会社にとって、効率がいいから求められているのです。

 100人に100回説明するより、1回で100人に伝わったほうがいい。
 マニュアルを読めば誰でも同じように理解できるほうがいい。

 だから、「言語化して共有しましょう」となる。

本当に「誰にでも伝わる言葉」はあるのか?

 ただし、ここに落とし穴があります。

 人によって知識も経験も違います。
 親しい友人に伝わる説明と、新入社員に伝わる説明は違う。
 専門家に伝わる言葉と、初心者に伝わる言葉も違う。

 そもそもコミュニケーションとは、相手によって変わるものです。
 だとすれば、「誰にでも同じように伝わる完璧な言葉」を目指すこと自体に無理があるのかもしれません。

「言語化、言語化」と言われるようになった背景には、誰とでもコミュニケーションし、それを効率化したいという社会の事情がある。

 そう考えると、「うまく言語化できない」と悩んだときにも、少し違った景色が見えてくるのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。