ノーベル賞の登竜門・ラスカー賞受賞で話題! 睡眠学の世界的権威・柳沢正史教授が、最新研究をもとにやさしく解説した著書『世界最高の睡眠学が教える 睡眠の正解』が話題です。巷にあふれる睡眠の常識・思い込みの真偽を解き明かしつつ、「眠れない」「起きられない」「寝ても疲れがとれない」といった悩みの解消法を提唱します。あなたが本来の自分を取り戻し、よりよい明日を迎える睡眠のヒントをお届けします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・中村直子)

「お酒はやめなくていい」睡眠学者・柳沢正史が教える、睡眠の質を守るお酒の飲み方Photo: Adobe Stock

お酒を飲むなら、このルールだけは守ってほしい

「よい睡眠のために断酒してください」とまで言うつもりはありません。私自身晩酌は好きです。研究室の若い人と飲みに行くのが大好きなので、そんな日は「今夜の睡眠は捨てた」と割り切ります。飲みすぎて睡眠の質が悪くなっても、1日くらいならどうってことありません。ただし、普段の飲み方には少し工夫が必要です。晩酌をするなら夕食と一緒に。タイムリミットは就寝の3~4時間前までです。これなら眠るころにはアルコールの大部分が分解され、睡眠への悪影響を最小限に抑えられます。もちろん、適量で。目安はワンポーション(ビールならロング缶1本、ワインならグラス約2杯、日本酒なら1合)です。残念ながら、睡眠学的にOKな晩酌の量は、意外と少ないのです。

 お酒を飲むときはチェイサーも一緒に飲むようにしてください。水をはさめば自然と飲むペースが落ち、水分補給にもなります。さらにアルコールの総量も抑えやすくなります。ここで気になるのは、「薄めたら、そのぶんたくさん飲んでしまうのでは?」ということです。ところが、必ずしもそうではない。それをうかがわせるおもしろいマウスの実験があります。

 くわしくは…
 2025年に科学誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』に載った、アメリカ・マサチューセッツ大学の実験です。マウスはアルコール入りの水を自分から飲みにいくほどのお酒好きです。この実験では時間を区切って好きなだけ飲ませました。

 与えたのは、濃いお酒と、それを半分の濃さに薄めたお酒です。飲んだ量はどちらもほとんど同じでした。薄いほうを与えられたマウスは、たくさん飲んで埋め合わせようとはしなかったのです。結果、摂取したアルコール量はおよそ半分になりました。

 アルコール好きのマウスでも、濃度が半分になったからといって、倍の量を飲んで埋め合わせることはありませんでした。もちろん、人間が同じだとは断定できません。それでも「薄くしたら、そのぶんたくさん飲んでしまうのでは?」という心配とは逆の結果です。

 よほど気が利く居酒屋でないかぎり、チェイサーはこちらから頼まないと出てきません。一説には、水を出すとお酒を飲む量が減り、お店の売上が減ってしまうからだともいわれています。飲食の現場では「水をはさむと酒の注文ペースが落ちる」というのは、昔から経験則として語られてきたことです。もちろん、科学的に証明した話ではありません。それでもアルコールの濃度を半分にしても飲む量が倍にはならなかったマウスの実験と、方向性が重なるのはおもしろいところです。チェイサーはシンプルに水を選ぶのがいいでしょう。ウーロン茶にはカフェインが含まれており、せっかくお酒の量を控えてもカフェインで覚醒してしまっては元も子もありません。

 もう1つ、飲みすぎを防ぐ方法としておすすめなのが、途中からノンアルコールビールに切り替えることです。1杯目は好きなお酒を楽しみ、2杯目からはノンアルにする。これなら“飲む”という楽しみはそのままに、アルコールの摂取量を無理なく減らせます。

 最近はノンアル商品の種類も豊富で、無糖や食物繊維入りの商品まであります。パッケージもお酒とほとんど変わらず、気分を損ないにくいのもいいところです。我慢して減らすのではなく、置き換えて減らす。そのほうがずっと続けやすいでしょう。

 お酒は、眠るためではなく楽しむために。飲むなら適量を、布団に入るずっと前までに。この2つを守るだけでも、睡眠へのダメージはかなり減らせます。お酒を楽しむことと、睡眠の質を守ることは両立できるのです。

お酒がないと眠れないなら

 寝る直前までだらだらと飲みつづけたり、寝つきをよくするためにお酒をあおったりする習慣は、今日からきっぱりとやめてください。
「そうはいっても、お酒がないとどうしても眠れないんだ」

 もし本気でそう悩んでいるのなら、毎晩寝酒を続けるよりも、医療機関を受診して睡眠薬を処方してもらうことを強くおすすめします。
「睡眠薬なんてなんだか怖い」「薬にだけは頼りたくない」と、強い抵抗感を持つ人は少なくありません。しかし、睡眠学の立場から、はっきりとお伝えしておきます。

 睡眠のリズムをめちゃくちゃに壊し、脳や体にダメージを与えつづける“寝酒”を毎晩あおるほうが、体にとってははるかに恐ろしく、危険な行為です。医師の指導のもとで適切な処方薬を飲むほうが、ずっと安全で理にかなっています。

 お酒は睡眠を壊しますが、睡眠薬は睡眠を守るためにつくられた薬です。医師と相談して依存性の少ないものを選ぶ。そうすれば、毎晩の寝酒で脳や体を壊すよりも、はるかに安全に眠りを取り戻すことができるのです。眠れない夜を自己流の寝酒でやり過ごすくらいなら、まずは医療機関に相談する。これが、体にも脳にもよりまっとうな選択です。