ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは「風呂キャンセル問題」。入れない理由を分解すると、打つ手が見えてくる。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

職場の人間関係が壊れる人がやっているNG行動・ワースト1Photo: Adobe Stock

「くさい」は、誰も指摘してくれない

――『生きづらい女の子が覚えておいてほしいこと』では、においの問題を、かなり重く扱っています。

なちゅ。:はい、マナーや服装よりも致命傷になりがちなのが、におい問題だと思っているからです。「くさい」と思われたら、人間関係にダメージが入ります。

それなのに、「くさい」は他人が一番指摘しにくい。そして自分でも気づきにくい。この組み合わせが、いちばん怖いんですよ。

――その元凶のひとつが、いわゆる「風呂キャンセル」ですね。

なちゅ。:ADHD界隈ではおなじみの言葉ですね。お風呂や歯みがきに、なぜかスムーズに取りかかれない現象のことです。

死守したい防衛ラインは2つだけ。シャワーで頭を洗うことと、1日1回は歯をみがくこと。

でも……それができないから苦労しているわけですよね。だから、精神論ではなく、構造の話をしたいんです。

風呂は、タスクが多すぎる

――なぜ、お風呂をキャンセルしたくなるのでしょう。

なちゅ。:複数のタスク処理が苦手、というADHDの特性に大きくかかわっていると私は考えています。

お風呂って、入って出るまでのタスクが膨大なんですよ。服を脱いで、頭を洗って、体を洗って、湯船につかって、出て、体を拭いて、髪を乾かして、スキンケアして……。次々にやるべきことが多い。

この大量の連続したタスクを目の前にすると、脳が処理しきれずに、静かにパニックにハマって動けなくなる。だから、キャンセルしたくなるんです。

――怠けているわけではない、と。

なちゅ。:ぜんぜん違います。逆に言えば、タスクの数、つまり「次にやること」への思考の数を最小限まで減らせば、キャンセル率は格段に下がるということでもあります。

自分のボトルネックは、どこにあるか

――具体的には、どう減らすのでしょう。

なちゅ。:私の場合のボトルネックと対策を、挙げてみますね。

服を脱ぐのがめんどくさい。これは、帰宅した瞬間、かばんを置く流れでそのまま全裸になってシャワーへ向かいます。立ち止まるな。座ったら負けです。

体を拭くのがめんどくさい。バスタオルは重くて腕が疲れるので、長めのフェイスタオルを2~3本のほうが小回りが利きます。洗濯もラクです。

そもそもタオルが無理。これは、拭きません。ドライシャツとズボンのセットを買って、濡れたまま着ます。バスローブは洗濯乾燥が面倒なので却下です。

――髪や体のほうは。

なちゅ。:頭を洗うのがめんどくさいなら、シャンプーとリンスの一体型を使う。なんならシャンプーだけでもOKです。翌朝、後付けのトリートメントをつけてリカバリーすればいい。

体を洗うのがめんどくさいなら、毎日洗わなくていい。洗うなら、においの出やすい股をデリケートゾーン用の石けんで。ついでに首まわり、脇、関節。素手で石けんをなでつけるだけです。

湯船から出られない、お湯がたまるのを待てない。待っている間に寝てしまうタイプですね。これはもう、シャワーのみにします。冬は寒くても、入らないよりマシなので。

日本人は、風呂が好きすぎ

――湯船に入らない、という選択をしているんですね。

なちゅ。:日本人は、風呂が好きすぎると思っていて。「湯船につからないと疲れが取れない」とよく言いますけど、はっきり言って、湯船は疲れます。

日中ずっと気を張って必死に生きて、よろよろと家にたどり着いて、そこからさらに疲れることをしなくてもいいんじゃないか、と。

――守るべき線だけ守る、ということでしょうか。

なちゅ。:そうです。頭を洗う。歯をみがく。そこさえ守れていれば、あとは全部削っていい。

大事なのは、「ちゃんとお風呂に入る」という大きな塊のまま向き合わないことです。どこで詰まっているのかを分解して、その一点だけ外す。そうすると、急に動けるようになります。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。