「ちゃんとやろう」と思っているのに、なぜかできない。やる気がないわけでも、ふざけているわけでもないのに、気づけば取り返しのつかない事態になっている――。発達障害の特性がある人の中には、そんな経験を持つ人も少なくない。
年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、自身もADHD当事者である岩切健一郎氏の著書『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』。同書の刊行に寄せて、著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに、自身の大学時代の「まさかの失敗」について寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

【発達障害・生きにくさのリアル】浪人して入った大学を留年。電話口で親も絶句したその理由とはPhoto: Adobe Stock

勉強するのを忘れて留年

 あなたに大学生の息子がいると仮定してください。
 息子からある日突然電話がかかってきて「俺、留年する」と言われたとします。

 そして、その理由を聞いたら、

「ごめん。勉強するのを忘れてた」

 という返答があったとします。
 あなたはどうしますか。

 もちろん、激怒しますよね。人によっては、勘当ものかもしれません。
 浪人してやっと入った大学。
 大したアルバイトもせず、サークル活動にかまけすぎて、挙げ句の果てにはテストを受けられず留年した大学生。

 そう。これは私です。
 冒頭の台詞は、私が電話で親に伝えた実際のものです。
 うっかりにもほどがあります。
 理解を超える言葉だと思います。

 弁解させていただけるなら、当時、就職活動がうまくいかず、いわゆる「新卒カード」をドブに捨ててしまうのが怖くて、安く自主留年できる制度があったのでそれを利用しようかと考えていた、というのもあります。

 ただそれは、将来にしっかりしたプランがあり、そのために講義もきちんと受けていた人のための制度だったと思います。希望していた講義がその年は行なわれないなど、何らかの事情でもう1年在学したい人が利用するものです。

 就職活動から逃げ、講義にも出ず、なし崩し的に留年になったような人間の救済のために設けられた制度では、おそらくなかったでしょう。

 しかし、やる気がなかったわけではないのです。
留年したかったわけでも、ましてや大学を辞めようとしていたわけでもありませんでした。
 それなのに、やるべきことを先送りし、講義に行けず、テストも受けられず、気づけば取り返しのつかないところまできてしまったのです。
 自分でも、なぜそうなったのか説明できませんでした。
 そこで、止むにやまれず口をついて出てきた言葉が、「勉強するのを忘れてた」でした。
 電話口で親は絶句していました。

「ADHD TAX」と一緒に生きていく

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』では、ADHDの特性が原因でかかってしまうコストを「ADHD TAX」と呼んでいます。
 こうした「なぜかできない」は、時としてお金の問題にも直結します。
 ちょっとしたうっかりで物を忘れたとしても、買い直せば済みます。
 しかしそれが年単位ともなると、失うお金もそれだけ大きくなります。

 本書には、こんな箇所があります。

 ここまで見てきたように、それぞれのADHD TAXは小粒であっても(大粒なことも多々ありますが)、長期にわたると大きな経済的負担であり、同時に自分のメンタルも削られます。ADHD TAXでの損失を計算すると、我ながら気が重くなってしまいます……。とは言え、ADHD TAXと一緒に生きていくしかありません。
(中略)
 本当は痛いんです。でもへこまないようにうまく自分をだます言い訳は、メンタルを折らないために準備しておきたいところです。自分を追い詰めすぎないでくださいね。

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P125)

 私の例は極端かもしれません。また、「ADHDだからうっかり留年した」とは言えません。
 しかし、「うっかり」や「不注意」に心当たりのある方は、多かれ少なかれ、「ちゃんとしなければ」と思ってもうまくいかずに余計にお金がかかってしまうこともあると思います。

 こういった失敗が積み重なると、多くの人は、「どうせ自分はうまくいかないのだ…」と、無力感を抱いてしまいがちです。そうなると、新しい対策を試してみようという気持ちさえ、だんだん失われていきます。

 そうした失敗を「そんなこともありますよ」と受け止め、その上で、「意思ではなく、仕組みや人で対策を立てる」「防げない出費もあることを理解する」ということを伝えてくれるのがこの本です。

 本書のタイトルにあるのは、「お金のことをちゃんとできる人」ではなく、「ちゃんとしたい人」です。「したい」のになぜかできないと自分を責めて、ますますお金のことを考えたくなくなる。そんなところからでも始めていいのだと、本書は教えてくれます。
「お金のこと、そろそろちゃんとしなきゃ」と何度も思いながら、何度もうまくいかなかった人にこそ、手に取ってほしい一冊です。