男性を制止する警備員写真はイメージです Photo:PIXTA

「カスハラだから、氏名を公表する」――行政の現場では、そんな単純な対応が許されるとは限らない。東京都は罰則を設けない一方、三重県桑名市では、警告後も繰り返す場合に氏名公表を可能にしている。さらに公立病院では「出禁」の実例もある。職員を守るための対策は、どこまで許されるのか。※本稿は、大阪経済大学国際共創学部准教授の山谷清秀『クレームvs公務員――「住民の声」というジレンマ』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

東京都は「罰則」より
企業の自主対応を重視した

 2025年4月に施行された「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以後カスハラ条例)は、「なにがカスハラか」という定義や線引きの難しさを乗り越えることに挑戦しました。そこで、一般的・汎用的な定義をしつつ、具体的な対策を現場で行えるよう支援する体制をつくりました。各業界や各職場との役割分担の視点から行政としてなにができるのかを明確にしたのです。この役割分担の視点は、後続の自治体にとって、そして民間企業にとっても、大変参考になるものです。

 当初、検討部会では、東京都が行為の抑止や啓発をするためには、どのような基準を設けるべきか、という議論が中心でした。これは東京都に限らず、どの現場でも関心が持たれる項目です。しかし、本書でも繰り返し述べてきたとおり、カスハラかどうかを判断する基準は決して一般的・客観的にはなりません。

 検討部会でも議論の経過とともに、各企業の現場のことは、各企業が一番わかっているため、企業が主体的に取り組む必要があるという認識に変化していきました。行政が禁止条例を定めて「直接抑止効果」を狙うよりも、行政は各企業が個々にカスハラ対策に取り組めるよう「後方支援」するという方向性へ変わっていったのです。こうした東京都のカスハラ条例では、各業界・各事業主がそれぞれで抱える個別のカスハラ被害を把握し対策をとることを東京都が推進するというかたちになりました。