便利なら、人は自然と使う――。そんな常識を覆したのがAmazon Goだ。レジ待ちも会計操作もなく、商品を手に取って店を出るだけ。画期的な仕組みに見えたが、その「便利すぎる体験」がかえって利用者の不安や違和感を生んだ可能性がある。なぜ便利さは、普及につながらなかったのか。『概念シフト』から一部抜粋して紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

【便利すぎて不安】Amazon Goはなぜ広がらなかった?「商品を選んで、ただ出るだけ」に潜む落とし穴Photo: Adobe Stock

便利で受け入れられるもの、そうでないもの

 便利な仕組みをつくれば、人々は自然にそれを使うようになるのだろうか。新しい技術によって手間が減っても、これまで慣れ親しんできた行動と大きく異なれば、利用が進まないこともある。

 新しい行動様式を人々に受け入れてもらうには、既存の行動様式との乖離を点検する必要がある。その際に役立つのが、機能的価値、社会的価値、感情的価値、認識的価値という4つの観点だ。

 機能的価値の観点では、新しい行動様式が、既存のスキルや習慣化された動線から乖離していないかを評価する。また、社会的価値の観点では、新しい行動様式が、現状の社会規範に照らして違和感がないかを評価する。そして、感情的価値の観点では、その行動様式の体験に、感情的な違和感がないかを検討する。最後に、認識的価値の観点では、その行動による結果の予測可能性が高いか、自己イメージとの乖離がないかを評価する。

 例えば、スーパーでの買い物のケースを考えてみよう。従来の方式は、カゴを持って商品をカゴに入れ、商品をレジに持っていき、会計をし、商品をレジ袋などに入れて退店するという行動を伴う。

 対して、Amazon Go(アマゾンゴー)に代表される新しい行動様式は、アプリで入店し、カゴに入れた商品は店内のAIカメラが認識し、そのまま退店すると自動で会計が行われる「Just Walk Out(ただ出るだけ)」である。この新しい行動様式と既存の行動様式の乖離を考えてみよう。

 機能的価値の観点からいえば、「ただ出るだけ」のほうが、物理的労力が小さい。アプリをダウンロードし、アカウントをつくるなどの労力は加わるが、レジで並ぶ必要もなければ、会計後の商品を自分で入れ直す必要もない。

 一方、感情的価値の観点からすると「ただ出るだけ」は常に不安感がつきまとう可能性がある。会計をせずに店を出るという行動は、人によっては万引きをしているような後ろめたさを感じるからだ[※1]。

 また、認識的価値の観点からすると、「ただ出るだけ」は、自動化されているがゆえに、顧客からすると、スキャンの結果や支払いの結果など、行動の帰結としてのフィードバックがないため、何が起こっているかが見えにくい。つまり、商品を選んでそのまま持って帰るだけという行動様式は、一見して行動を妨げる物理的摩擦がまったくないものの、その一方で何が起こっているかもよく理解できない状態を引き起こす。

 買い物体験の完全自動化を推し進めようとしたAmazon Goは、当初は数千店舗規模の展開が報じられたが、2026年には全店舗の閉鎖が決定した[※2]。もちろん、この閉鎖は初期投資が大きいことなど、複合的な要因によるものだろう。しかし、技術的完成度が高いにもかかわらず人々の受容が進まなかった一因として、既存の行動様式との乖離という視点は示唆に富む。

 では、既存の行動様式との乖離を最小化するにはどうすればよいか。1つは、段階的移行の設計である。初期段階では、カゴをレジに持っていくと自動で商品がスキャンされるような「セミ自動方式」へ移行し、最終的に完全自動化を目指すなどだ。

 また、社会的価値を補強するために、店舗入口での明確なサイン、他の利用者の存在の可視化、スタッフによる初回利用者へのサポートなどにより、「これは正当な購買行動である」という社会的承認を強化できるだろう。これらの施策は技術的には後退に見えるかもしれないが、行動変容の観点からは、より高い受容性と持続的な利用につながる可能性がある。

 最後に、認識的価値の補強である。商品を手に取った瞬間にスマートフォンに視覚的フィードバックが届く、カート内の商品リストがリアルタイムで更新される、商品を棚に戻した際に明確な削除通知が表示されるといった仕組みだ。さらに、退店ゲートで合計金額が大きく表示され、決済した際の効果音が鳴るとともに、レシートがその場でメール送信されるなど「支払いが完了した」感覚を強化する設計が考えられる。

 このように、4つの価値軸の観点から既存の行動からの乖離を点検することで、新しい行動様式のあるべき姿の設計が効果的に行えるようになるだろう。

【注釈】
注1 Bullinger, J.(2018, January 24). Amazon’s checkout-free store makes shopping feel like shoplifting. The Atlantic. https://www.theatlantic.com/business/archive/2018/01/amazon-go-store-checkouts-seattle/551357/(2025年10月30日閲覧)。
注2 Amazon.(2026).Amazon Blog. https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-fresh-go-stores-closing-expanding-whole-foods(2026年2月12日閲覧)。