「部下に好かれる」「自分らしく振る舞う」「メンバーに尽くす」。理想的に見えるリーダーシップも、いつでも正解とは限らない。重要なのは、一つのスタイルを「最強」と信じ込むことではなく、状況に応じて使い分けることだ。『人を動かし、成果を生み出す リーダーシップの科学』から一部抜粋・編集して紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「このリーダーシップが最強」は危険…優れた上司ほど状況に応じて“道具”を使い分けるPhoto: Adobe Stock

流行のリーダーシップ論の落とし穴

 リーダーが規範的に振る舞うことを重視するエシカル・リーダーシップ、自分らしさを基軸とするオーセンティック・リーダーシップ、メンバーへの奉仕や支援を重視するサーバント・リーダーシップなど、「○○リーダーシップ」といったリーダーシップのさまざまなタイプが生まれてきた(*1)。

 これら○○リーダーシップ論は、ニュージャンルのリーダーシップ(*2)、あるいはそのリーダーシップにみる共通の特徴から楽観的リーダーシップ(*3)と半ば揶揄的に呼ばれることがある。

 この楽観的なリーダーシップ論に含まれる諸理論は、仕事や組織の目的よりもむしろフォロワー(部下など、リーダーの働きかけを受けるメンバーなど)の反応に焦点が置かれ、規範的、理想主義的、人間中心的、教訓的といった特徴を持つとされる(*4)。つまり、それぞれ異なる定義を持ち、異なるリーダーシップであるようで、相互にかなり類似しているのである(*5)。

 さて、ウェイクフォレスト大学のショーン・ハンナは、これらニュージャンルのリーダーシップ論への批判として、5つの点について触れている。それらは次の点である。

●日常的なリーダーシップの要求や実践からかけ離れた、理想的な姿を思い描く過度に規範的でイデオロギー的なリーダー像であること

●リーダーへの機能的な要求や業務の達成をやや無視するような過度に人間主義的なリーダー像であること

●リーダーシップとは何かという点に道徳性を恣意的に入れ込んでいること

●フォロワーの欲求や感情を過剰に重視し、組織や組織の目標を疎かにしていること

●これらのリーダーシップスタイルのリーダーシップとしての評価と、リーダーの好感度といった全般的にポジティブな感情的反応が渾然一体としていること

 こうした批判の背景には、ニュージャンルのリーダーシップ論や楽観的リーダーシップ論が、フォロワーの感情や人間的なすばらしさといった点ばかりを強調し過ぎている結果、「こういうリーダーはいいよね」というフォロワー側からの感覚的な評価が、そのままこれらのリーダーシップの評価とつながってしまっていることがあるといえるだろう。

 もちろん、これらのことはそれぞれのリーダーシップ論を提唱してきた研究者が見落としている点ではない。それぞれの研究者は、それぞれのリーダーシップスタイルの限界を理解した上で提示をしている。

 しかし、問題は、これらのリーダーシップスタイルが、理想的であるが故にどのような状況や文脈においても通用する「ベストな新しい」リーダーシップスタイルだという印象を与えてしまっていること、他のリーダーシップに取って代わるものだと考えてしまうことにある。

 本来、これらのリーダーシップスタイルは、それぞれの実践者が(使いこなせるかは別として)それぞれ必要な時に用いる道具であることを認識しなくてはならないのである。つまり、リーダーのある側面を描いたに過ぎないリーダーシップスタイルが、知らぬ間に福音となり、そのようなスタイルがすべてのリーダーシップの問題を解決するかのごとく捉えられてしまうことに問題がある。

 結果として、次から次へと新しいリーダーシップ論が生まれては消えるという、ビジネス界の現象を引き起こすことにつながっている。

【注釈】
1)この点については、鈴木竜太・久保雄一郎・吉崎雅浩(2023)”リーダーシップ論の回顧と展望”, 『国民経済雑誌』,第227巻, 第4号, pp.45-67. に詳しい。
2)Hannah, S. T.et al. (2014). Debunking the false dichotomy of leadership idealism and pragmatism: Critical evaluation and support of newer genre leadership theories: NEWER GENRE LEADERSHIP THEORIES. Journal of Organizational Behavior, vol.35,no.5,pp. 598-621.
3)楽観的なリーダーシップ論と総称したアルベソンはMats Alvesson (2020) “Upbeat leadership: A recipe for - or against - ‘successful’ leadership theory”, Leadership Quarterly, vol. 31, no. 6, Article 101439.で、ややアイロニカルに、これらのリーダーシップ論をつくるレシピとして20の押さえるべきポイントを示している。例えば、その原則の3は「スタイルを想定し、そのスタイルにかかわる4つか5つくらいの次元を用意すること」であるとしている。
4)Hannah et al.,(2014)およびAlvesson,(2020)を参照のこと。
5)ここでは3つのリーダーシップを挙げたが、スピリチュアル・リーダーシップ、アダプティブ・リーダーシップ、エンパワリング・リーダーシップ、自己犠牲的リーダーシップなど、似たようなリーダーシップの概念はいくつかある。