経営学の知識を軸に、より良いリーダーシップを振るえるようになることを目指す『リーダーシップの科学』。良いリーダーを目指して試行錯誤するリーダーに、新たな視点を提示する1冊だ。本稿では、本書の発売を記念して、著者である鈴木竜太氏に寄稿いただいた。

部下は「正しい指示」ではなく、「わかってくれる上司」に動かされるPhoto: Adobe Stock

リーダーと部下との関係も、基本は「人間関係」

 初めて部下を持つと、人は「理想のリーダー像」を考え始める。

「強いリーダーシップで引っ張るべきなのか。」
「それとも、自分らしいリーダーを目指すべきなのか。」

 しかし実は、リーダーシップを発揮するうえで、もっとも重要なのは別のところにある。

 上司と部下という新しい関係を築くうえで、何か特別なスキルが必要だと気負ってしまうのも当然だ。だが、まず押さえておきたいのは、リーダーと部下の関係も結局は「人間関係」だということ。良い関係が築ければ、リーダーシップは格段に発揮しやすくなる

 ここで参考になるのが、親子関係だ。親は自分のほうが人生の先輩だという意識があり、子どもに対して、自分の考えを押し付けたり、子どもの考えを未熟なものとして捉えたりしがちだ。けれども、それでは対等な信頼関係は生まれにくい。

 子どもと良い関係を築くためには、子どもが「自分のことをちゃんとわかってくれている」という気持ちを抱く必要があり、この「わかってもらえている感覚」が関係のカギになる。

 例えば、子どもが学校の出来事を話してきた時、親がすぐに「こうしたほうがいい」「だから言ったでしょう」と遮ってしまうと、子どもは「わかってもらえた」と感じにくい。

 しかし、「そんなことがあったんだ」「悲しかったんだね」とまず受け止めてもらえると、「自分のことを理解してもらえた」と感じる。実は、こうした感覚が信頼関係の土台になる。

 上司と部下の関係でも、同じことが言える。リーダーは「自分をわかってもらう」と同時に「部下を理解する」こと、そして部下に「自分のことをリーダーはわかってくれている」と思ってもらうことが大事だ。

 そのため、リーダーは自分のことを理解してもらうという一方的なコミュニケーションではなく、まずは部下を理解しようとするコミュニケーションを心がけたい。それが、より良いリーダーシップの発揮にもつながる。

良い人間関係は、良いリーダーシップにつながる

 実は、リーダーシップ論でも、このリーダーと部下の「関係」に着目するリーダーシップ論がある。それが、リーダーシップの交換関係論(Leader Member Exchange理論、以降LMX理論)だ。

 LMX理論ではリーダーと各メンバーとの個々の人間関係の質に着目する。そして、相互がお互いのことをよくわかっている(わかってもらっている)という関係が強いほど、リーダーシップがよく働く、つまりはリーダーの考えをくんでフォロワー(部下)が主体的に行動すると考えられている。

 このLMX理論が主張する「リーダーシップの発揮にはフォロワーとの関係の強さが重要だ」という考えに強く反対する人は、それほど多くないだろう。事実、LMX理論の正しさは研究においても数多く実証されている。

 しかし、よく考えるとこのLMX理論は大胆な考え方でもある。

 LMX理論が主張していることは、極端に言えばリーダーの行動や振る舞いよりも、リーダーとフォロワーの関係の質がリーダーシップを左右するという考え方だ。

 ではLMX理論に基づけば、リーダーは自分の行動や振る舞いを気にしなくてもよいのだろうか。実際には、上司と部下の間に発生するリーダーシップは、LMX理論が示すような関係性だけでは決まらない。もちろん、リーダーの行動や振る舞いによっても影響を受ける。

 大事なことは、良いリーダーシップを発揮するための最適な方法は1つだと考えないことだ。リーダーシップはさまざまな要因に左右される。LMXが示すように「関係性」を良くする。それと同時に、自分の行動や振る舞いも工夫すれば、より良いリーダーシップにつながる。

 冒頭で述べたように、「強いリーダーシップを発揮して部下を引っ張れるようになりたい」「自分にはカリスマ性がないので、自分らしさを大事にしたリーダーを目指したい」といった行動や型だけにこだわり、部下との関係性が良くなければ、リーダーシップは効果的に発揮できない。

 自分に専門能力や知識がない時や、具体的にどのように指示や行動をしてよいかわからない時には、まずこの関係性を良くすることから始めるのも有効だろう。