すでに多額の投資をしてきた孫さんのような人にとって大きな関心事の1つは、オープンAIがどのようなIPO(新規株式公開)を実現するかです。
そのときに、世論を無視して危険な開発に突き進む会社だと思われたまま上場するのは、それ自体が大きなリスクになります。
実際、米国ではオープンAIやAnthropicのトップ級のリードエンジニアが相次いで退職し、AI開発について「あまりにも危険すぎる」と訴える投稿がXで大きな話題になりました。こうした動きによってAI開発のリスクそのものに注目が集まっています。
ここまでの大騒ぎになれば、オープンAIも世論を無視できなくなったのではないでしょうか。
AIはこれからの経済・社会のインフラになります。そこで選ばれるためには「安心して任せられる会社」という信頼を確立しなければなりません。そう考えると、今回の判断について、孫さんをはじめとする投資家たちも適切な経営判断だと受け止めるのではないでしょうか。
私が見ているのは、5年や10年で終わるAIブームではありません。今後100年ほどのビジネスの中心にAIがあり、あらゆる経済活動や暮らしが「AIというOS」の上で動くようになる。そうした社会を想定しています。
その基盤を握るための競争だから、立ち止まれない。一方で、基盤になる会社だからこそ、危険性を無視しているというイメージも放置できない。今回の判断には、この両面があると思います。
長野 泰和ANOBAKA 代表取締役社長/パートナー
KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。KVPでは5年間で80社以上のスタートアップへ投資。2020年12月ANOBAKAを設立。
核と異なるAI特有の危険性
“よくわからない”の壁
私は、AIには核開発以上に歯止めがかかりにくい面があると感じています。危険が目に見えにくいからです。
原爆には、広島などの被害を伝える写真があります。抽象的な説明ではなく、人間がどれほどの被害を受けるのかを目で見て理解できる。私は、その強い視覚的なインパクトが、核の危険性を社会が共有するうえで大きかったと考えています。
ところが、AIの危険性を語ると、話がどうしても抽象的になります。映画『ターミネーター』のようにロボットが人間を襲うなら、誰でも怖さを理解できるでしょう。しかし、現実に起こり得るAIの脅威は、わかりやすいイメージを伴いません。
AIが、AIを開発するためのコードを書く。そのプログラムが複雑になり、人間の理解や想像を超えていくことです。
人間が中身を十分に把握できなくなれば、異常に気づいたときには、もう止められないかもしれない。そこに怖さがあります。
ただ、「AIが開発用のコードを書く割合が増えた」と聞いても、多くの人は自分の生活との関係を実感しにくいでしょう。ましてや、すぐに命が危険に晒されるわけではありません。
危険を実感しづらいまま、相手に負けるわけにはいかない競争が進む。ここに、「AI冷戦」の怖さがあると思っています。







