中国系LLMを使う
シリコンバレーの起業家たち

 では、米中のどちらが勝つのでしょうか。私は、五分五分というか、非常に予測しづらい状況だと見ています。

 そのうえで、AI冷戦において中国側に分があると考えるのが、国家と企業の関係です。

 米国では、いくら政府の力が強くても、オープンAIに政府が介入して「安全性より性能を重視しろ」と自由に指示できるわけではありません。民主主義では、企業も世の中の声を無視できないのです。

 一方、中国政府の国内企業に対する統制力は、米国よりはるかに強い。国がAI競争に勝つという戦略を掲げたとき、企業をその方向に動かしやすい。この違いは大きいと思います。

 米国企業が安全性や世論への対応を迫られる一方で、中国は国として競争に勝つことに力を集中させやすい。自由な社会であることが、米国のよさであると同時に、AI冷戦における“弱点”にもなってしまうのです。

 しかも、中国は技術面でも強い。私が注目しているのは、シリコンバレーの起業家の間で、自社のサービスを動かす大規模言語モデル(LLM)に中国製が選ばれていることです。性能がいい、あるいはコスト面で有利だと考えて使っているのでしょう。

 中国には、あまり知られていなくても、オープンAIやアンソロピックに対抗できる水準のLLMをつくるスタートアップが続々と生まれています。

 ただ、中国にもリスクはあります。

 AIの進歩で富が一部に集中し、多くの人の仕事が代替されれば、格差や失業への対応が社会の安定を左右しかねません。企業への統制力が強いからといって、AIの影響をすべて抑え込めるとは限らないのです。

 そうした米中の間で、日本はどうするべきか。私は、世界最強でなくてもいいから、国産の「ソブリンAI」を持つことに意味があると考えています。

 実際、日本でも官民で国産AIの開発が進んでいます。政府が開発支援を進める一方、民間ではNTTの「tsuzumi」などが登場しており、海外製AIへの依存を減らす取り組みが広がっています。

 1960年代の核開発競争で、アメリカとソ連以外にもフランスやインドが核を持つに至ったのと同じことです。

 米中に対抗できなくても、全面的に依存するのと、自分たちにもAIがあるのとでは違います。「勝てないから、つくらなくていい」とはならないのです。

 これは、数年で終わるブームへの対応ではありません。100年続く社会の基盤をどう持つかという話です。だからこそ、多少弱くても、自分たちのAIを持っておく。その意味は大きいと思います。