普段は慎重に物事を判断しているのに、あるとき突然、大きなリスクを取ってしまう。あとから振り返れば「どうしてあんなことをしたのだろう」と思うような決断を、なぜ人間はしてしまうのだろうか。実は、危険な選択をしてしまう背景には、脳の「ご褒美を求める仕組み」と「衝動を抑える仕組み」のバランスが関係している。しかも、そのバランスは日々のストレスや睡眠不足によって崩れてしまうことがあるという。そんな仕組みを『すべて本能のせい』から解説する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

考え込んでいる老人Photo: Adobe Stock

普段は慎重な人でも、危険な選択をしてしまう

「絶対に失敗したくない」
そう思っていても、私たちはときに、自分でも驚くような大胆な行動を取ってしまう。

たとえば、十分に考えずに大きな買い物をしたり、リスクの高い投資に手を出したり、結果がどうなるかわからない選択に飛び込んだりすることがある。

もちろん、リスクを取ることが必ずしも悪いわけではない。
新しいことに挑戦するには、ある程度の不確実性を受け入れる必要がある。

しかし、問題なのは、普段なら避けるはずの危険を、十分に検討しないまま受け入れてしまうことだ。

なぜ、いつもは冷静な人でも、判断を誤ってしまうのだろうか。

その理由の一つは、私たちの脳が、必ずしも「危険だから避けよう」と判断するわけではないことにある。

「危ない」とわかっていても、やめられない脳の仕組み

『すべて本能のせい』ではこのように解説されています。

危ないと分かっていても、つい大きなリスクに飛び込んでしまう。
そんな行動の裏側には、脳の中にある「ご褒美を求めるシステム」と「ブレーキをかけるシステム」の激しいせめぎ合いがあります。
たとえば、やる気や快感を生み出す「腹側被蓋野」という場所から、報酬に反応する「側坐核」へと繋がるドーパミンの回路は、次への期待を高める役割を持っています。
このルートは、結果がどうなるか分からない状況で強く反応することがあります。
つまり、事前の予想と現実のギャップが大きい状況ほど、ドーパミン神経の活動が高まり、その行動を何度も繰り返したくなるのです。
先の見えないドキドキする状況では、報酬への期待が強まり、それ自体が大きな魅力として感じられることがあります。
一方で、その危険を評価し、衝動を抑える役割を担っているのが「前頭前野」です。
なかでも、長期的な見通しを立てる「背外側前頭前野」や、社会のルールを考える「眼窩前頭皮質」と呼ばれるエリアが、目先の衝動を抑えるブレーキの役割を果たしています。
ただ、このブレーキの仕組みは、生まれてから成熟するまでにとても長い時間がかかります。特に思春期から20代前半にかけては、まだ十分に育ちきっていません。
おまけに、すっかり大人になった人であっても、日々のストレスが溜まっていたり睡眠不足が続いたりすると、この前頭前野の働きはガクンと落ちてしまいます。
そうなると、脳内ではブレーキが利かなくなり、ご褒美を求めるドーパミンの勢いばかりが強くなります。
その結果、普段なら避けるような危ない橋を、一気に渡りたくなってしまうのです。

睡眠不足やストレスが、判断を狂わせることもある

ここで注目したいのは、脳の「ブレーキ」は、いつも同じように働いているわけではないということだ。

普段は冷静に判断できる人でも、疲れがたまっていたり、十分に眠れていなかったりすると、衝動を抑える働きが弱まることがある。

すると、本来なら慎重に考えるべき場面でも、目の前の魅力的な選択肢に気持ちが傾きやすくなる。

「うまくいくかもしれない」
「今しかチャンスはないかもしれない」

そんな期待が膨らむ一方で、失敗した場合のリスクを十分に考えられなくなってしまうことがあるのだ。

つまり、危険な選択をしてしまうかどうかは、性格や意志の強さだけで決まるわけではない。
そのときの脳の状態も、私たちの判断に影響している。

大切な決断ほど「疲れているとき」にしない

人生には、仕事、お金、人間関係など、大きな決断を迫られる場面がある。
そんなときほど、目の前の選択肢が魅力的に見えても、すぐに飛びつかないことが大切だ。

特に、強いストレスを感じているときや、睡眠不足が続いているときには注意したい。
その場で結論を出す必要がないのであれば、一度判断を保留し、十分に休んでから考え直すのも一つの方法だろう。

もちろん、休息を取れば必ず正しい判断ができるというわけではない。
それでも、「今の自分は冷静に判断できる状態だろうか」と問いかけることには意味がある。

大きな失敗を避けるためには、何を選ぶかだけでなく、“どんな状態のときに選ぶか”にも目を向ける必要があるのだ。