調査では、「一概に良し悪しは言えない(63.9%)」や「競争に勝つうえではやむをえない(48.5%)」と擁護する声もある一方で、「時代錯誤であり、脱却すべきだ」とする意見が、6割(60.4%)に達した。特に、否定的に評価されたのは、「仕事を最優先すること」だった。

 こうした古い風土は、単に、上司の性格や職場の雰囲気だけで生まれるものではない。背後には、長年にわたり、日本企業を支えてきた雇用システムが横たわり、多大な影響を与えている。

 言い換えれば、なぜ「仕事最優先」が当然視されるのか、なぜ長時間労働が仕方ないものとして許容されてきたのか、なぜ古い価値観が世代を超えて再生産されるのか、といったところまで掘り下げない限り、問題は何も解決しない。

 古い風土のような組織レベルの問題は、個人や職場に多層的な影響を及ぼすため、核心に迫る問題解決が求められる。本稿では、その核心には、日本企業に特有の「正社員の無限定性」が深く関係していると考えている。

「昔からこうしてきた」が
ムダな仕事を生み続ける

 実際、冒頭で紹介した「企業風土の実態調査」では、回答者の多くが20~40代の男性正社員であったにもかかわらず、古い風土を持つ企業への反対派は、約7割にも達した。

 図表4-6に示したように、反対理由の上位項目は、いずれも「効率の悪さ」、「変化への鈍さ」、「形骸化したルールへの固執」といった、組織の内側にある構造的な問題への不満であった。

図表4-6 古い風土をもつ企業に反対する理由同書より転載 拡大画像表示

 ここで思い出されるのが、文化人類学者のグレーバー(※注4)による「ブルシット・ジョブ」である。

 本人でさえ存在意義を見いだせないほど無意味で、なくなっても誰も困らない仕事が、組織の中で増殖していく現象を指す。「くそどうでもよい仕事」と訳され、長いだけで何も決まらない会議、ほぼ誰も読まない報告書の作成、形だけの稟議リレーなどが典型例とされる。

 ブルシット・ジョブの背景には、雇用者が「働き手の時間と全人格を金銭で購入した」とみなす発想があると、グレーバーは論じている。

 仮に効率よく短時間で仕事を終えても、雇用者が購入した時間内である限り、働き手は勝手に休んだり別のことをしたりする権利はないと、雇用者は考えがちだという。だからこそ、働き手に勝手な時間を作らせないように、誰も必要としていない作業が次々と生み出される。

 そしてなぜか働き手同士にもその発想は浸透し、効率よく仕事を終えて休んでいる同僚を許せない気持ちが生じる。結果として、無駄は削減されず、むしろ強要され続けていくというのである。

 この構造は、日本企業に根強く残る「正社員の無限定性」と驚くほど似ている。古いシステムに疑いを持たない人々は、かつてのルールが形骸化していることに気づかないまま、それを当然のものとして受け継ぐ。また、たとえ非効率だと気づいたとしても、「自分もそうしてきたのだから、新入りも従うべきだ」という発想が働く。

 これはもっともらしく聞こえるが、実際には何の正当性もない。ブルシット・ジョブが維持・増殖する構造と、本質的に変わらないのである。

※注4 Graeber, D.(2018). Bullshit Jobs : A theory. Simon & Schuster.(酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』岩波書店、2020)ブルシット・ジョブには、「取り巻き(flunkies)」、「脅し屋(goons)」、「尻ぬぐい(duct tapers)」、「書類穴埋め人(box tickers)」、「タスクマスター(taskmasters)」の5類型があるとされる。