ノーベル賞の登竜門・ラスカー賞受賞で話題! 睡眠学の世界的権威・柳沢正史教授が、最新研究をもとにやさしく解説した著書『世界最高の睡眠学が教える 睡眠の正解』が話題です。巷にあふれる睡眠の常識・思い込みの真偽を解き明かしつつ、「眠れない」「起きられない」「寝ても疲れがとれない」といった悩みの解消法を提唱します。あなたが本来の自分を取り戻し、よりよい明日を迎える睡眠のヒントをお届けします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・中村直子)

【諦めて寝るのが正解】睡眠学者・柳沢正史が明かす「ひと晩寝かせる」の科学的根拠Photo: Adobe Stock

ひらめきは、眠っている脳で作られる

 いいアイデアが出ない、企画がまとまらない、いくら考えても答えが見つからない。

 そんなとき、多くの人はさらに机にしがみつこうとします。コーヒーをがぶ飲みする、資料を読み込む、ネットを徘徊する、生成AIに壁打ちする……。

 もちろん、それも悪くありません。ですが、もっともコストパフォーマンスが高く、強力な方法を提案したいと思います。

 一度諦めて、さっさと寝てください――。

 ずいぶん雑なアドバイスに思えるかもしれませんが、睡眠学的には、これはかなりまっとうな戦略です。

 睡眠には、記憶を整理するだけでなく、優れた考えや答えが一瞬で頭にパッと浮かぶ“ひらめき力”を劇的に後押しする力があることが、科学的に示されているのです。

「ひと晩寝かせる」は、科学的に正しいアプローチ

 日本語には「ひと晩寝かせる」という慣用句があります。昼間いくら考えても答えの出なかった問題が、ひと晩寝て起きてみると、不思議と解決の糸口が見えている。複雑にこんがらがっていた頭の中が、朝にはスッキリ整理されている。そんな経験を、多くの方が持っているはずです。

 じつはこの言葉には、見事な科学的裏付けがありました。ひと晩ぐっすり眠るだけで、脳のひらめきが3倍になることが研究でわかったのです。

くわしくは…

これを裏付ける有名な実験が、科学誌『ネイチャー』に掲載されています。

被験者に、ある法則に従って数字を処理していくパズルに取り組んでもらいました。まじめに1ステップずつ進めていけば、確実に答えにたどり着く。ただし、かなり時間がかかる。

ところが、このテストには巧妙な“抜け道”が用意されていました。途中で出てくる2番目の回答が、つねに最終回答と一致するように作られていたのです。この抜け道の存在にひらめけば、面倒な手順を一気にショートカットできます。
ひと晩眠ったグループは、翌日にこの抜け道に気づく確率が、眠る前の時点や眠らなかったグループと比べて約3倍にはね上がりました。

 睡眠は、暗記した知識を定着させるだけの時間ではありません。散らばった情報を整理し、新しい結びつきを見つけだす洞察力や気づき、そういったひらめきの能力を高めてくれる時間でもあるのです。

 よくアーティストが、名曲について「メロディが天から降ってきた」「歌詞が突然浮かんだ」と語ることがあります。

 睡眠学的に見れば、その降ってきたひらめきの裏側では、眠っているあいだに脳がせっせと働いていたはずです。昼間に見た景色、誰かとの会話、昔聴いたメロディ、言葉にならなかった感情……。そうした断片を、眠っている脳が整理し、つなぎ直し、ある朝ふいに「これだ」と差しだしてくれる。

 あなたが心を動かされたあのメロディも、忘れられないあの歌詞も、もしかすると、誰かの脳がひと晩かけて準備した“睡眠からの贈り物”だったのかもしれません。