『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第86回では、世界的企業と街のたばこ屋に共通する「商売の鉄則」について解説する。
安定株主の裏切りに反論、創業社長が譲らない「商売の鉄則」
創業時からの支援者であり、現在も大株主である塚原為ノ介から、「中国からの撤退」と「北米・ヨーロッパへの進出」という、現状と真逆とも言える戦略転換を提案されたことで激しく揺れる、新興アパレル企業・T-BOXの臨時株主総会。
この機に応じT-BOXを買収しようと画策する外資系ファンド・サンデーキャピタルの福沢ウィリアム太郎は、この塚原の意見に賛同し、「中国撤退か社長退陣か」とT-BOXの創業社長である、花岡拳に迫る。
長年信頼してきた安定株主である塚原の“裏切り”とも言える言動に戸惑う花岡。だが、意を決してこう切り出した。
「中国から撤退すべしというご提案、私としては受け入れることはできません」
「海外進出は近場から攻める!この根拠は…近所で一番!これが商売の鉄則だからです!」
花岡は、T-BOXの最終目標を世界一のアパレルメーカーと定義しつつも、そのためにはまず、身近なライバルに勝つために切磋琢磨し、シェアを獲得し続けることだと主張。株主たちに、奇をてらわない王道の戦略だとして理解を求めた。そしてその主張を聞いた塚原は、笑みを浮かべつつ、花岡に拍手を送るのだった。
「世界一」を目指す企業ほど、「近所で一番」を目指す理由
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
花岡が語った「近所で一番!」という言葉。じつは創業時の花岡に対して、塚原が語った言葉のいわゆる“伏線回収”になっている。
本連載の第23回にもあるように、塚原は以前、「商売の究極の理想形は街のたばこ屋だ」と語り、その理由を自分で見つけるよう花岡に説いていた。その答えを自分なりに模索してT-BOXを成長させてきた花岡が、この場を借りて塚原にその答えを伝えたというわけだ。
花岡がたどり着いたのは、壮大な目標を掲げることと、目の前の市場で勝つことは矛盾しないという考え方だろう。世界一を目指すなら、まず身近な競争で勝つ。そして勝てる範囲を少しずつ広げていくという戦略だ。
現実の企業にも、こうした成長の仕方は見られる。今では家具・インテリア大手となったニトリも、北海道・札幌市で創業し、道内、そして本州へと店舗網を拡大。並行して取り扱い商品などを広げつつ、上場。そして海外初出店の地として2007年に台湾を選んだ。
その後、中国大陸へ進出し、近年ではマレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムなどアジア各地へ店舗網を広げている。
いきなり世界全体を取りに行くのではなく、ひとつの市場で事業モデルを磨き、その経験を次の市場へ展開する。これは店舗ビジネスに限った話ではない。商品でもサービスでも、まず特定の顧客や地域で「選ばれる理由」を作り、それを隣の市場へ広げていくのは、成長の王道のひとつだ。
塚原の出した問いに、真正面から「商売の鉄則」を答えて打ち返した花岡。彼の言葉で、臨時株主総会の大勢が決するのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







