物価高・円安など、老後の不安は高まるばかり。これからどう生きればいいのか?
だが、そんなことなどどこ吹く風とばかりに淡々と生きている人がいる。作家の椎名誠氏(82)だ。
1973年、太平洋を航海中にクジラと衝突して船を失い、118日間を漂流した英国人のモーリスとマラリンのベイリー夫妻。その壮絶な実話と、生還後の人生を描いたノンフィクション『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著、村井章子訳)に推薦文を寄せたのが椎名誠氏。今回、椎名氏に奇跡的にインタビューが実現! 第1回は、「人生と漂流」について聞いた。(取材・構成/小川晶子)

82歳・椎名誠の「一切コントロールしない生き方」とは?Photo: Adobe Stock

「後悔のない生き方」なんてありえない

――椎名さんは作家としてこれまで300冊もの本を書かれ、80歳を超えたいまも書き続けていらっしゃいます。「元気の秘訣」は何かあるのでしょうか?

椎名誠(以下、椎名):僕はもともと体力系の人間だからね。72歳くらいまではしっかりトレーニングをしていました。腹筋や腕立て伏せなんかは家でもできるじゃないですか。基礎体力は大事だと思います。やはり体が健康だと心も健康になるんですよ。

――人生100年時代と言われるようになって、老後の人生をいかに生きるかというのは一つのテーマになっています。
「老後に後悔したくない」という趣旨の記事がよく読まれている傾向にあり、多くの人が悔いのない人生を生きたいと考えているのだなと思います。椎名さんから何かアドバイスはありますか?

椎名:後悔してもいいじゃないかと思います。「私は後悔がまったくない、きわめて清廉潔白の美しい人生でした」なんて、恥ずかしいじゃないですか。ありえないですよ。
僕だって後悔はいろいろあるけど、「ああすればよかった、こうすればよかった」といつまでも考えたりはしませんね。くよくよしない。これは健康の秘訣でもあります。

――未来に対する不安はどうでしょうか。たとえば作家として、「本が売れなかったらどうしよう」と不安になったりするようなことはないですか?

椎名:昔に比べて本は売れなくなっていますね。でもそれは世間のことだから考えても仕方がない。ときどき「俺の本がこれしか売れないなんて」とカンカンに怒っている人もいるけど、僕は笑って見ています。売れる売れないは、自分が決めることじゃないですから。

「漂流」のように生きる

――今回、漂流記マニアの椎名さんに『極限の漂流118日間』の読みどころをお聞きしたいのですが、椎名さんの考え方と漂流には「コントロールしない」という共通点があるように感じました。漂流の場合はコントロールしたくてもできないわけですが。

椎名:そのとおりです。あなたいいことを言いましたよ。もっと売れなきゃいかんとか、無理に何かをしようとするからおかしなことになるんです。自然に流れるように生きていたほうがいいんだよなって思います。
人生って、あのときああすればよかった、こうすればよかったって言いながらも、わからなくて流されていくものでしょう? ほとんどの人は漂流しているんです。僕もそうです。漂流人間。

――漂流人間!

椎名:そうですよ。

――本書の第4部は、まさに「生きるとは漂流すること」というタイトルです。わずか4ページほどの短いパートですが、これがとても効いていますね。

人生という長い旅路では、よいときもあれば悪いときもあるというのはごく自然なことだと言える。そもそも、これからわが身に降りかかることを全部知って生きていく人など、どこにいるだろう。となれば、生きるとは漂流することだと誰もが知っているのではないだろうか。
――『極限の漂流118日間』より

人間の能力を最大限に高める

――この本をどんな人に読んでほしいですか?

椎名:「コンピュータ社会にどっぷり浸かっている人」に読んでほしいですね。極限の世界では、機械なんてすぐにやられてしまって通用しません。通信もできない。そういう状況では、人間の能力を最大限に高めて生きることになります。コミュニケーションも変わるし、精神も変わると思います。そんなことを想像しながら読むといいんじゃないでしょうか。