食生活の乱れが生活習慣病につながる──現代日本の常識だが、身についた食習慣を変えることは難しい。そこで子ども時代に健全な食行動を身につけるべく、家庭での「食育」が注目されている。しかし、自分自身の食生活すら改善できないのに、子どもに何と言えばいいのだろう。先月、この悩みに応える研究報告が米国の心理学専門誌に載った。

 米スタンフォード大学の研究者らは、未就学児を2グループに分け、片方はおやつの時間に栄養素と消化・代謝の仕組み、ミネラルの働き、エネルギーと生理機能といった知識を組み込んだ一連の物語を読み聞かせた。もう片方のグループは通常のおやつ時間を過ごさせた。

 こうした介入を3カ月間続けた結果、読み聞かせをしたグループの子どもたちは「胃袋は食べ物を細かくする」「血が栄養を運ぶ」など生理機能を正しく理解したばかりか、おやつの時間の野菜摂取量が2倍に増えていたのである。一方、いつものおやつ時間グループの子どもたちの食行動は変化しなかった。

 さらに、親がよく口にする「何でも食べなさい」「野菜を食べなきゃ駄目」など一般的な食育行動と読み聞かせ群を比べた。その結果、両群ともに食事内容が改善したが、読み聞かせ群では栄養に関する知識が増え、野菜摂取量がより高まったという。研究者は「子どもには好奇心があり、一貫した知識体系により興味を示す」とし、未就学児だろうと体系的な食育アプローチが効果的だとしている。

 もう一つ「JAMA小児科」に掲載された思春期の子ども(平均年齢14.4歳)を対象にした米国の研究では、両親が子どもの体重やサイズについて一言多い場合、摂食障害や過激なダイエットに走りやすいことが示されている。逆に、健康的な食生活に関する会話をしている場合は、不健康なダイエットを行う比率は少なかった。

 昨今のあわただしい食卓で、体系的に栄養学の話をするのは難しいかもしれない。しかし、その場しのぎは逆効果なのだ。夏休み中に自分自身への「食育」も含め家族の食卓を見直してみよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド