大型鉄道事業の遅延や予算超過は、インドに限った問題ではない。英国の高速鉄道HS2でも建設費の膨張や工期の遅れが問題となっている。日本でも、北海道新幹線の新函館北斗―札幌間で建設費が当初計画を大幅に上回り、開業時期も遅れる見通しだ。

 だが、それらを斟酌しても、インド側の説明だけですべてが正当化されるわけではない。

 供給の遅れや価格の高さは、契約の枠内で再交渉すべきである。破格の円借款という「入り口」を確保したまま、協力の前提を大幅に変更するのであれば、日本側の同意は絶対である。

日本は「お人好しのギバー」から脱却できるか

 この問題を考えるとき、米国の組織心理学者アダム・グラントの世界的ベストセラー『GIVE & TAKE』が参考になる。

 グラント氏は人間の行動様式を、他者への貢献を重視する「ギバー」、他者から得る利益を優先する「テイカー」、与えることと受け取ることの均衡を求める「マッチャー」の3類型に分けた。これは本来個人についての分類だが、組織や国家にも援用可能だろう。

 日本はインドに対し、破格の条件で資金を提供し、技術移転や人材育成にも協力してきた。自国の利益だけでなく、相手国の発展を支えようとする姿勢は「ギバー」的な行動として捉えられる。

 一方のインドは、調達先の選択や技術の国産化を通じて、自国の利益最大化を図っている。こうした方針そのものは、国の産業政策として理解できる。ただし、その過程で協力相手との合意や負担の分担が十分に調整されなければ、長期的な信頼関係を損なうおそれがある。

 グラントが論じる「成功するギバー」は、相手に貢献しながらも、自分の利益を見失わない存在である。日本に求められているのは、まさにこの姿勢への転換だろう。

 ギバーであることと、相手の不条理な要求を無条件に受け入れる「お人好し」であることは違う。善意だけでは国際ビジネスは成立しない。たとえインドで失敗しようが、日本は「成功するギバー」の態度を貫くべきである。