ADHD当事者のなちゅ。さんが、試行錯誤の末にたどり着いた「生きるコツ」を詰め込んだ『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』。同書を「多くの人に読んでほしい」と語る「精神科医さわ」氏(『「発達ユニークな子」が思っていること』著者)は、日々の診療で多くの「生きづらさ」を抱える子どもや親と向き合うかたわら、自身も発達特性のある娘たちを育ててきた。同書の読みどころとともに、「生きづらさ」との向き合い方を聞いた。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

【精神科医が解説】「生きづらさ」を軽くするために大事な、たった1つのことPhoto: Adobe Stock

医者が言いたいが、言えなかったこと

――さわ先生は、『生きづらい女の子が覚えておきたいこと』をどう読まれましたか?

精神科医さわ(以下、さわ) 見返し(表紙を開いたところ)からして最高ですよね。「私もクソだが、世界もクソだ」。そんな「生きやすく」なるメッセージがバーッと並んでいて。こういうことって、精神科医という肩書きがあるとなかなか書けないんです。でも、本当は言いたいし、多くの先生方もきっと言いたい。それを、ADHDの当事者であるなちゅ。さんが言うからこそ、伝わるんだろうなと思います。

最後のページでは、うるうるして泣きそうになりました。「好きにしろ。あなたの人生はあなたのもの」。私はなちゅ。さんのことをあまり存じ上げなかったのですが、親御さんともいろいろあったのかなと想像しました。うちの母も、愛情をかなり押し付けてくるタイプだったのですが、子どもの頃にこの本を読んでいたら、私ももう少しラクだったのかな、と思う部分がありましたね。

大きな生きづらさを抱えてこられたと思いますが、よくぞここまで自分をライフハックされたな、と。それを惜しみなく伝えようとしてくれる優しさにも感動しました。

特性を知って「自分を責めるのはやめよう」と思えた

――先生ご自身は、生きづらさを少しでも軽くするためにどんな工夫をされてきたのでしょうか?

さわ 私は、自分では「診断未満」かなと思っているのですが、ADHDの特性が自分にもあるなとは感じています。それに気づいたのは、子どもたちが発達障害の診断を受けたときでした。私、とにかくだらしないんです。片付けもできないし、試験勉強も計画を立ててできない。そんな自分をずっと責めていたのですが、ADHDかもしれないと気づいたとき、初めて「もう責めるのをやめよう」と思えた。それはすごく良かったことですね。

なちゅ。さんも、診断を受けたときのことを「謎が解けた」というように書かれていたと思います。それにかなり近い感覚が、私にもありました。

――医師の立場から見ても、こうした「謎」は早く解けるに越したことはない、ということでしょうか?

さわ それが、一概にそうとも言えないんです。ここは診療していても難しいところで、「あなたは発達障害です」と告知したとき、なちゅ。さんのように謎が解けて安心する人もいれば、逆に傷つく人もいます。

それでも一番伝えたいのは、自分の発達特性、発達のユニークさを知ることは、生きづらさを軽くするための「杖」になるということです。

仕事ができない、自立した生活が送れないということであれば、もちろん専門家を頼って診断を受け、福祉サービスなどのサポートを使ってもらったほうがいい。でも、そこまでではない人もたくさんいます。そういう場合でも、診断がついていないから問題がない/特性のせいにしてはいけない、とは私はまったく思いません。

発達のユニークさゆえに困っているのであれば、それに応じた対策や工夫、つまり仕組みを整えて、どんどん生活をラクにしていってほしいと思います。

知識をつけると、他人に優しくなれる

さわ 世の中、これだけ発達障害やADHDという言葉が一般的になってきたけれど、当事者の人たちが生きやすくなってきたかというと、まだまだ追いついていない部分があります。だからこそ、当事者の方の「工夫」が本になって世に出ることには、すごく意味があると思っています。

この『生きづらい女の子が覚えておきたいこと』という本は、当事者やその親だけが読むべき本ではありません。関係ない人なんて一人もいないんじゃないでしょうか。ADHDの人は、あなたの職場にも絶対にいますから。

私自身、知識をつけることは、他人に優しくなれることだと思って発信しています。精神科医になってよかったと思うのは、いろいろな人の背景を知れること。「この人、何を考えているんだろう、怖いな」と思う人がいても、背景を知れば不安は消えます。相手のことが怖いのは、やっぱりわからないからなんですよね。

だから、みんなが当事者だと思ってこの本を読んでくれたら、もっとみんなが生きやすい社会になる。本当にそう思います。

精神科医さわ
児童精神科医、精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師、医療法人霜月之会理事長
精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。シングルマザーとして2人の発達ユニークな娘を育てている。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。これまで延べ5万人以上の診察に携わっている。