老後のために、今から何をしておくべきなのだろうか。健康に気を配ること、将来に備えてお金を蓄えること。大切だとわかっていても、日々の生活の中では、どうしても目の前の問題への対応が優先されがちだ。実は、その背景には、人間の脳が持つ意外な性質が関係しているという。『すべて本能のせい』から紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

不幸な老後Photo: Adobe Stock

人間の脳は「本当に大切なこと」を優先していない?

たとえば、突然のトラブルが起きれば、私たちはすぐに対応しようとする。
一方で、健康のための運動や将来に向けた資産形成などは、重要だとわかっていても、つい後回しになってしまうことがある。

なぜ、このような違いが生まれるのだろうか。
実は、人間には、長期的なリスクよりも、目の前に迫った危険に強く反応しやすい性質があるという。
これは、私たちの祖先が生き延びるうえで役立ってきた仕組みでもある。

しかし、現代では、その性質が必ずしも合理的な判断につながるとは限らない。

では、私たちはこの脳の癖と、どのように向き合えばよいのだろうか。

将来のリスクを見落とさないために、知っておきたいこと

『すべて本能のせい』では脳の癖との付き合い方を下記のようにまとめている。

「急にやってくる危険を優先してしまう性質」とうまく向き合うためにも、まずこのバイアスが生物学的に自然な反応だと受け入れることが大切です。
そのうえで、意識的に「すぐであればあるほど重要だ」という時間軸に対する認知のズレを整える仕組みを取り入れる必要があります。
たとえば、その危険はどの程度の頻度で起こるのか、自分の生活にどれほどの影響を及ぼすのかをデータで把握することで、直感的な恐怖とのギャップを認識することができます。
また、健康や資産形成といった長期的な課題については、「やるかやらないか」を都度脳に判断させないことです。日常的な行動に最初から組み込んでしまい、自動的に対処できるようにすることが重要になります。
社会レベルでも、できることは多くあります。
政策の決定やメディアの報道において、リスクの相対的な重要性を可視化することです。短期的なニュースだけに一喜一憂せず、長期的な課題にも社会の注意が向き続ける仕組みが必要です。
急なリスクへの感受性は、本来私たちを守るための大切な機能です。
しかし、それがいまの時代の環境において過剰に働く場合、私たちはその影響を理解し、仕組みによってそれをコントロールすることが必要となります。
人間のリスク認知の癖をあらかじめ前提に含めて意思決定をすることが、いまの時代をより生きやすくする行動につながります。

老後のために大切なのは「意志の強さ」だけではない

ここで注目したいのは、長期的な課題について、毎回「やるか、やらないか」を判断しなくてもよい仕組みをつくるという考え方だ。

たとえば、運動する曜日を決めておく。将来に備えた積み立てを自動化する。
こうした方法なら、目の前の出来事に気を取られていても、将来のための行動を続けやすくなる。

また、不安なニュースに接したときには、実際にどれほどの確率で起こることなのか、どの程度の影響があるのかを確認することも大切だ。

私たちの脳は、急な危険に素早く反応する一方で、時間をかけて影響が現れる問題には注意を向けにくい場合がある。
だからこそ、老後のために必要なのは、ただ意志を強く持つことだけではない。

自分の脳が持つ性質を理解し、将来のために大切な行動を、無理なく続けられる仕組みにしておくこと。
それが、老後に後悔しないための、一つのヒントになるのではないだろうか。