『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第88回では、大企業の「仕組み化」について解説する。
私がやればもっと売れる、もっと儲かる
株主である外資系ファンド・サンデーキャピタルの要請によって、これまで数々の手で事業を妨害してきた宿敵・一ツ橋商事の井川泰子を専務として迎えることになったアパレルメーカー・T-BOX。
一ツ橋商事での部下である高野雅人とともに出社した井川は、T-BOXの役員たちを眼の前に、こう宣言する。
「いいこと、みんな。この際はっきり言っとくけど、私はこの会社の大株主から、役員として任命されてきたの。ということは、大株主に対して業績を上げ、株価を上げ、利益をもたらすことが使命。私はこの責任を果たす義務があり、そのためにベストを尽くす。この当たり前のことを粛々と遂行するから、みんなもそのつもりでいてちょうだい」
そしてすぐに社員を集め、営業月報と週報を持ってくるように指示。それを見るやいなや、「全然なってない」といい、書類を机に叩きつけてこういうのだった。
「あんた達!はっきり言って…甘いわ!!」
「組織がバラバラで企業としての体をなしていない。ベンチャーの典型ね。なあなあで済ませて緊張感全くナシ。いつまでたっても一人前のシステムが作れない」
「ここはまるで赤ちゃんの会社よ!」
社員に散々な発言を浴びせる井川だが、T-BOXは自らの手中に収めたい会社だ。そのためにサンデーキャピタルを影で操り、様々な手段を取ってきた。そんな井川の本音も漏れる。
「この会社のパフォーマンスはこんなもんじゃないはずよ。これだけの商品力がありながらこの程度って、ありえないでしょ。私がやればもっと売れるわ。もっと儲かる!!」
「個人技」だけでは会社は大きくならない、大企業が勝つための「仕組み」の力
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
井川が問題視したのは、T-BOXの商品力そのものではない。むしろ「これだけの商品力がありながら」と評価した上で、会社として成果を出す仕組みができていないことを批判している。
創業間もない企業なら、社長や一部の優秀な社員の奮闘が、そのまま業績を左右することも少なくない。だが組織が大きくなれば、個人の力量に依存した経営には限界が来る。誰が担当しても一定の水準で仕事が進み、情報やノウハウが組織全体で共有される「仕組み」が必要になる。
井川が所属する一ツ橋商事も、劇中では「大手商社」という設定だが、現実の大企業が強い理由のひとつにも、長年の経験を“型”として組織に蓄積していることが挙げられる。
その一例が伊藤忠商事だ。同社の岡藤正広会長CEOは、経営の基本として「稼ぐ・削る・防ぐ」を意味する「か・け・ふ」というキーワードを掲げてきた。収益を伸ばすだけでなく、無駄を削り、事業上のリスクを抑える。この考え方を組織の共通言語として、日々の経営に落とし込んでいるという。
こうした「仕組み」を考えるうえで興味深いのが、伊藤忠のキャッシュ創出力だ。伊藤忠が独自に開示する、営業活動によって実質的に生み出したキャッシュを示す「実質営業キャッシュフロー」は、2019年度の6020億円から2025年度には過去最高の9400億円まで拡大している。
ダイヤモンド編集部の記事では、証券アナリストがその背景として、伊藤忠本体がグループ会社の経営に深く関与し、徹底してキャッシュを回収する仕組みが機能していることを挙げている。
会社を成長させるには、優秀な人材を集めるだけでは足りない。その人たちの成功体験や判断を、組織全体で繰り返せる「仕組み」に変えていくことも必要になる。
T-BOXの組織体制に容赦なくメスを入れると宣言する井川。花岡たちは、これまでとは違う経営スタイルにどう向き合うのか。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







