自分よりも専門知識が豊富で、判断も速い。そんな優秀な部下を持つことに、複雑な気持ちを抱く管理職もいるのではないでしょうか。しかし、部下に負けまいと頑張ることが、かえって組織の成長を妨げる場合があります。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札優秀Photo: Adobe Stock

「自分より優秀な部下」が現れたら、どうする?

「この案件なら、課長より私のほうが詳しいと思います」

 部下から直接そう言われたら、あなたはどう感じるでしょうか。

 あるいは、会議で部下の提案のほうが評価されたり、自分が知らなかった最新の技術や市場動向を部下から教えられたりした経験はないでしょうか。

 部下の成長は喜ばしいことです。しかし、内心では少し焦ってしまう管理職もいるかもしれません。

「自分が上司なのに、部下のほうが優秀でいいのだろうか」

「このままでは、自分の存在価値がなくなるのではないか」

 そんな不安から、必要以上に細かく指示を出したり、部下の提案に口を挟んだりしてしまう。

 しかし、これこそが、優秀な部下を持つ上司が注意すべき行動です。

 管理職は、部下より仕事ができる必要はありません。

 そもそも、プレイヤーとして優秀であることと、マネジャーとして優秀であることは、まったく別なのです。

「自分がいないと回らない組織」は危険

 多くの管理職は、自分がチームの中心にいることに存在価値を感じています。

 部下から相談されれば答えを出し、トラブルが起きれば自分が解決する。重要な判断はすべて自分が下す。

「やっぱり課長がいないとダメですね」

 そう言われると、頼りにされていると感じるでしょう。

 しかし、ここに大きな落とし穴があります。

 上司にすべての情報と権限が集中している組織では、上司が休んだ途端に判断が止まってしまいます。

 これを、私は「ハブ型組織」と呼んでいます。

 自転車の車輪の中心にあるハブのように、マネジャーが組織の中心となり、すべての部下に指示を出す構造です。

 一見、効率的に見えますが、中心となる上司が機能しなくなると、組織全体が動けなくなる危険があります。

 つまり、「自分がいなければ回らない」と自慢できる組織は、決して理想的な状態ではないのです。

優秀な上司は「パルテノン型組織」をつくる

 では、目指すべき組織はどのようなものでしょうか。

 私が提案したいのは、「パルテノン型組織」です。

 古代ギリシャのパルテノン神殿を思い浮かべてください。神殿には何本もの柱があり、それぞれが屋根を支えています。

 組織も同じです。

 共通の目標のもと、専門性を持ったメンバーがそれぞれの役割を果たし、互いに支え合う。

 マネジャーも、その柱の一つとして組織を支えます。

 自分より得意なことがある部下を、競争相手として見る必要はありません。その強みを組織の柱の一つとして生かせばよいのです。

 この状態であれば、上司が一時的に不在になっても、チームは自律的に動くことができます。メンバーが互いの強みを活かして協力できれば、仕事は止まりません。

 重要なのは、上司がすべてを判断することではなく、上司がいなくても判断できる「仕組み」をつくることなのです。

マネジャーとして次のステージに進むチャンス

 パルテノン型組織をつくるためには、まず部下の能力や経験を把握し、強みを発揮できる役割を与えることが必要です。

 次に、チームの目標や優先順位、判断基準を明確にします。

 そして、必要な権限を部下に委譲し、メンバー同士が支え合える環境を整えます。

 もちろん、「あとは自由にやって」と丸投げするだけではいけません。どこまで自分で判断してよいのか、困ったときは誰に相談すればよいのかを明確にすることも重要です。

 こうした仕組みが整えば、部下が上司より優れた専門知識を持っていても、何も問題はありません。

 むしろ、部下が自分の能力を存分に発揮するほど、チーム全体の成果は高まります。

 そして、上司自身も日々の細かな判断から解放され、より重要な仕事に集中できるようになるのです。

 管理職の価値は、自分がどれだけ優秀かではなく、自分がいなくても成果を出せる組織をつくれるかで決まります。

 だからもし、「部下のほうが優秀かもしれない」と感じたら、焦る必要はありません。

 それは、あなたがマネジャーとして次のステージに進むチャンスです。

 部下の力を最大限に活かすこと。それが、強い組織をつくる第一歩になります。