「若手には、まず基本をしっかり教えなければならない」。そう考えて、仕事の手順を一から十まで説明していないでしょうか。しかし、その丁寧な指導が、かえって若手社員の意欲や能力を奪っている可能性があります。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札部下Photo: Adobe Stock

「言われた通りにやったのに」が不満になる

 若手社員に仕事を任せるとき、こんな指示を出していないでしょうか。

「まずは、このテンプレートを使って」

「過去の成功事例を3つ入れて」

「提案書の構成は、背景、課題、解決策の順番で」

 上司としては、仕事の基本を教え、失敗を防ぐための親切な指導です。

 ところが、数日後に提出された資料を見ると、確かに指示通りにはできているものの、内容が薄く、工夫も感じられません。

 そこで、ついこう言ってしまいます。

「もっと自分で考えてほしいんだけどな」

 しかし、部下からすれば納得できないでしょう。

「最初に細かく指示したのは上司なのに、今度は自分で考えろと言われても……」

 実は、こうしたすれ違いは珍しくありません。

 上司が良かれと思って出した細かい指示が、若手社員の考える機会を奪っていることがあるのです。

若手が「すべての仕事において」初心者とは限らない

 ここで考えてほしいのは、「若手だから仕事ができない」という思い込みです。

 例えば、入社3年目の社員を想像してみてください。

 顧客への提案書を作る経験はまだ浅く、構成の組み立て方や社内の承認手続きには不慣れかもしれません。

 しかし、データ分析や市場調査についてはどうでしょうか。

 学生時代からデータ分析に慣れ親しみ、最新のデジタルツールを使いこなしている人もいるでしょう。

 つまり、提案書の構成については初心者でも、データ分析については、すでに自分なりの手法を持っている可能性があるのです。

 ところが、上司が「入社3年目だから、まだ何もわからないだろう」と決めつけ、すべての工程に細かく指示を出したらどうなるでしょうか。

 本人が工夫して準備した分析資料も、「テンプレートに合わないから」と削除してしまうかもしれません。

 これでは、せっかくの能力を活かせません。

 部下の経験年数と、個々の仕事における能力は、必ずしも一致しないのです。

「新人だから指示型」というマネジメントの落とし穴

 ここで役立つのが、「SL理論(状況対応型リーダーシップ)」です。

 これは、部下の業務の習熟度と意欲などの状態に合わせて、上司の接し方を変えるという考え方です。

 例えば、経験が浅く、何をすればよいかわからない部下には、具体的な手順や基準を示す「指示型」が適しています。

 一方、一定のスキルを持ちながら、意欲や自信が安定していない部下には、本人の考えを引き出し、成長の方向性を示しながら支援する「コーチ型」が効果的です。

 ここで重要なのは、部下を「人」単位で分類するのではなく、「仕事(タスク)」単位で見極めることです。

 同じ入社3年目の社員でも、提案書の構成については細かな指導が必要かもしれません。

 しかし、顧客データの分析については、本人のやり方を尊重し、意見を聞きながら進めたほうが力を発揮できる場合があります。

「この部下はまだ新人だから、全部教えなければならない」

 そんな一律の接し方では、本人の成長を妨げてしまうのです。

部下の能力を潰さない上司が実践していること

 では、若手社員に仕事を任せるとき、上司は何を意識すればよいのでしょうか。

 まずは、仕事を細かいタスクに分け、それぞれについて本人の経験や得意分野を確認することです。

 例えば、提案書を任せるなら、こんな質問をしてみてください。

「提案書の構成は、一緒に確認しようか?」
「顧客のデータ分析については、どんな方法を考えている?」
「自分で進められそうな部分と、サポートが必要な部分はどこだろう?」

 こうした対話を通じて、部下の現在の能力と意欲を見極めていきます。

 そして、経験が浅い仕事では具体的に指導し、すでに能力を持っている仕事では本人の考えを尊重します。

 もちろん、任せたあとも状況を確認し、必要に応じて接し方を変えることが大切です。

 部下は日々成長しています。先月まで細かな指示が必要だった仕事でも、今月は自分で判断できるようになっているかもしれません。

 管理職の仕事は、部下をいつまでも「教えられる側」に置いておくことではありません。

 部下がすでにできることを見つけ、その能力を発揮できる機会を与えることです。

「若手だから、まだ何もできない」と考える前に、「この仕事については、すでに自分より詳しいかもしれない」と考えてみてください。

 その視点の転換が、若手の才能を引き出す第一歩になるはずです。