**地方店舗に異動
「それから、専務のご指示のあった高山昇さんの件ですが、総本店から出したあとの異動先はどういたしましょうか」
「おお、高山か。あいつはあかんな。皆が納得してやっとることを批判しかせんような奴はあかん。ああいう後ろ向きな奴はあかんで。どこか、地方の店にでも行って、勉強してきたらええんや」
阿久津が「勉強」という言葉を使う時は、こいつは気に食わないから、二度と戻ってこない前提で地方店舗などに異動させるという意味だということを、添谷野は理解していた。
「あの、高山さんについてですが、社長が、今度の伊奈木さんの部署がいいのではないかと言われています」
「ああ、そういえば、高山が新卒だった時に、あいつを総本店に配属させろ言うたのも社長やったな。あんた、それでどう答えたんや」
「検討しますと、お答えしておきました」
「うん、それでええ」
阿久津は、自分の意見を反映させて組織の最終案としようとする添谷野の態度に満足げにうなずいた。
「社長は、高山さんが気になっているご様子ですね」
「こいつはなあ、新入社員研修の時に元気がようて、どこでも、しゃべり倒しとったんや。やかましいやっちゃで。でも今の社長がな、こいつは前向きや、頭の回転もええ、考え方のセンスがいい言うてな」
そういう、元気がよく、前向きな若手、中堅の社員を、阿久津が次々につぶし、地方店舗に飛ばしているということを、添谷野は知っていたが、それについて口出しする気は毛頭なかった。
「で、この高山さんはいかがいたしましょうか?」
「こんな奴は、どうもならんな。そんなのは、わけのわからんところにでも入れとけばええわ。またあとで動かしたってもええしな。どうせ、そんな新しい部署なんて、そんな長いことはもたんやろうからな」
「かしこまりました」
添谷野令美は、先ほどと同じ笑顔を阿久津に返して、テーブルの上の組織図をたたみはじめた。
(つづく)
※本連載の内容は、すべてフィクションです。
※本連載は(月)~(金)に掲載いたします。
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