無味乾燥なデータ列が、地図上に展開することでぐっと眼前に浮かび上がる。それを実感させてくれるのが、GIS(地理情報システム)だ。

 たとえば経路検索なら、誰もがGoogleマップの便利さを実感している。地図を「見る」ことはもちろん、さらに進んで、企業や自治体が持っている地理データを「分析」して、レイヤーを「作成」し、それを地図に重ねて表示することもできるのがGISだ。そうして可視化されることで理解と共有が進み、データが生きたものになってくる。

 たとえば食品スーパーが新規店舗の出店を検討する場合を考えてみよう。

 地域ごとに人口構成比や生活パターンなどの特性があり、地域の既存店でどんな人に何が売れているのかも参考になる。国土地理院が提供する基盤地図や、各種公開データ、さらに担当者が足で稼いでパソコンに打ち込んできた生の情報がある。

 それらは元来バラバラのデータでしかないが、GISによって地図上のレイヤーに仕立てられ、重ね合わせて表示されることで、一目でわかる商圏分析データになる。また、需要予測も細かな地区ごとに色分けで表示できるという。

 地方自治体での活用事例では、特筆すべきは福島県相馬市の取り組みだ。

 相馬市は太平洋に面し、2011年3月の東日本大震災では沿岸部に甚大な被害を受けた。しかし同市では、震災の1年前には航空測量から1mメッシュの標高データを取得するなど基盤地図を蓄積し一元化していたこともあり、震災直後からGISを有効に活用して災害対応にあたり、被災から約3ヵ月後にはすべての避難所を閉鎖することができた。

被災後の相馬市内。レーザー測量結果と罹災家屋を重ね合わせた地図(提供:福島県相馬市)。こうした正確な地図情報のおかげで、罹災証明書の発行などが素早く進んだ

 その対応のスピードと精度が評価され、GISの世界最大手である米国Esri社が開催する世界最大規模のイベントで、GISテクノロジーの先進的かつ革新的な利用を進めるユーザーとしてSAG賞(Special Achievement in GIS Award)を受賞したのだ。

 震災直後の状況だが、相馬市役所は津波の直接的被害は受けなかったため、GISの利用環境(データ、ソフト、ハードウェアなど)は無事だった。しかし、GISに精通し、導入のリーダー役になっていた情報政策課の職員2名のうち1名は、津波によって亡くなられた。