「愚策の連続で呆れます。豊かさからくる一種のボケでしょうかね。県の役人は予算を年度内に使い切ることしか、考えていないみたいですね。予算が余ったら、来年度に繰り越すなり、県民に返すべきでしょう。こんなバカな施策はありません」
冷静な口調で語るのは、静岡空港に就航している海外航空会社のある幹部。静岡県が2月下旬に打ち出した静岡空港の緊急利用促進策の全路線への拡大についてである。パックツアーに対し、県が5000円補助するという施策だが、3月の旅行商品や航空券はすでに販売されており「今の時点で実施されても意味はない」と、きっぱりお断りしたという。静岡空港に国際路線を開設した3つの海外航空会社(大韓航空やアシアナ航空、東方航空)が足並み揃えての行動だった。ある幹部は、「航空旅行業の現場を全く知らない素人集団による愚策」と、一刀両断する。
新しい年度を目前にした静岡県で、空港利用をめぐるダッチロールがどうにも止まらない。そもそもの原因は、県が取り決めたJAL福岡便への搭乗率保証にある。実質7割を下回った場合、JALに保証金を支払うというもので、前知事が異論を抑えて締結した。昨年の開港(6月4日)直前のことだ。
ところが、JALは今年3月末で静岡空港から完全撤退し、福岡便の搭乗率も65%台(2月末時点)に留まっている。川勝平太知事はJALの信義則違反を指摘し、保証金の支払い拒否を表明している。その一方で、福岡便の搭乗率アップに力を入れている。8000万円の県費を用立て、福岡便限定の利用支援策を2月からスタートさせた。利用者に5000円を補助するなど、県費のバラマキ策である。
知事肝いりの福岡便支援策に対し、当然のことながら他の航空会社から「市場の競争を歪める不平等な施策」と、抗議の声があがった。年度末の旅行シーズンである。旅行者の苛烈な取り合いが展開される中で、特定の航空会社にのみ税金を使って肩入れする行為は、どう考えてもおかしい。しかも、県が肩入れするのはすでに撤退を決めている航空会社。県の施策は単なる民業圧迫にとどまらず、存続する航空会社の足を引っ張る矛盾に満ちたものと言わざるを得ない。全日空の幹部は2月8日、静岡県庁を直接訪れ、懸命に営業努力している正直者がバカを見ることのないようにと、強く抗議した。そして、地元自治体との信頼関係が損なわれたら、路線の維持は難しくなると、懸念を表明したのである。
JAL以外の航空会社から強い反発を受け、静岡県は大慌てとなった。川勝知事は2月22日の定例記者会見で、利用促進の支援対象を静岡空港発着の全ての定期便に拡大する方針を示した。それらの費用は、JAL福岡便の支援策として用意した8000万円で賄う(流用)ことになった。県はバラマキの対象を拡大することで、他の航空会社の不満は抑えることができると考えたようだ。