「発展空間」という中国語を聞いたことがあるだろうか?中国で企業や個人に仕事に関するインタビューを行っていると、この発展空間という表現にしばしば遭遇する。
中国語の発展空間とは、将来に展望を持つことができる空間・場所というような意味で、仕事やキャリアに限らず、ビジネスや都市開発などの文脈でも使われる。仕事やキャリア構築の文脈で発展空間という場合は、狭義にはスキルの向上やポジションの獲得、賃金の上昇など、広義には人生そのものの将来性を指して使われることが多い。筆者の知る限り、日本語に定訳はないように思う。
中国に進出している日系企業の多くが、労働市場の流動性の高さから、ローカル社員の離職やリテンション(人材の確保)に頭を悩ませているが、その原因を読み解くカギが発展空間を重視する中国人のキャリア観だ。そこで、本稿では日本人のキャリア観と比較しながら、中国人のキャリア観について考えてみたい。
日本人は「人間関係」「仕事内容」
中国人は「賃金」「キャリアパス」
中国人と日本人のキャリア観を比べるために、筆者の所属するリクルートワークス研究所が2012年、世界13ヵ国で実施した入職・転職に関する調査の結果を紹介しよう。この調査は、各国の大学を卒業している20代・30代を対象としているが、働き方はいわゆる正社員に限らず、有期社員や自営業者も含まれている。
「仕事をするうえで大切にするもの」というキャリア観に関する設問への回答が下図である。一貫して、日本人と中国人で回答の傾向が異なることがわかる。
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日本人が重視しているのは、上から「良好な職場の人間関係」「自分の希望する仕事内容」「適切な勤務時間・休日」。一方で中国人は、「高い賃金・充実した福利厚生」「明確なキャリアパス」の2つが50%を越え、突出して高い。