うまくいかない現地人材活用
実感知から実態値へ調査敢行
「アジアの時代」と言われて久しい。その嚆矢となった時期はアジアNIEs(韓国、台湾、香港、シンガポール)の存在が喧伝された1980年代だ。90年代には中国が目覚ましい成長を遂げ、2000年代に入ると、その中国とともに、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)という言葉で括られたインドの勃興に注目が集まる一方、経済危機を乗り越えて躍進する韓国の存在が輝きを増した。
そして今、TPP問題もからんで、新たな注目を集めているのが、堅調な経済成長が続く東南アジア諸国である。多くの日本企業が進出した中国では度重なる反日運動が起こり、中国偏重リスクも露呈している。そのなかで、豊富な労働力と分厚い中間層という魅力を兼ね備えた東南アジアの国々に、ますます熱い視線が注がれている。
しかし、うまくいかない。現地の人材活用の話である。現地のビジネスを推進していくには、現地をよく知る、地元の人材が貴重な経営資源となるはずだ。しかし、未だに多くの企業では経営陣を日本人が占め、現地の社員を責任ある立場に就かせることができていない。日本側の権限移譲が不十分だとよくいわれるが、実は、任せられるような人材を採用できていないという実情もある。
「彼らはすぐに辞めてしまう」「管理職層が採用できない」など、日本企業の抱える悩みは共通している。では、どうすれば現地の優秀な人材を採用し、その定着率を高めることができるのだろうか。そもそも彼らは、どのように就職し、どれくらい転職して、現在に至っているのか。
こうした実態を人事施策に生かしたくても、これまでは比較可能なデータが驚くほどなく、各国での実感知に頼らざるを得なかった。また、その場合も、「日本と比べてどうか」という観点で二国間で比較するケースが多かった。
そこで、現地での人材活用に欠かせない基本情報を収集すべく、多国間で調査を実施することにした。名付けてGlobal Career Survey である。調査エリアは、中国、韓国、インド、インドネシア、マレーシア、ベトナム、そして日本を含めたアジア8ヵ国と、参照国としてその他5ヵ国の計13ヵ国。日本企業が管理職候補として採用しうる、大卒20代、30代に対象を限定した。
本連載では4回にわたり、アジアの「働く」を解析していく。当然、アジアの一員である日本の雇用も、他国と比較しながら特徴を浮き彫りにしていく。雇用のグローバル化を進める日本企業の人事だけでなく、働く個人にとっても、この調査結果がアジア人材に対峙するための議論の材料になればこんな嬉しいことはない。
では、早速、彼らの、そして私たち日本人の「働く」を見に行くことにしよう。