職業経営者の誕生とコンサルティング・ビジネス
マッキンゼーが創立された当時、アメリカ経済は好況を呈していた。19世紀なかば以降、各地で鉄道が建設されると同時に電報が普及したことにより、ビジネスの規模は飛躍的に拡大、アメリカは大英帝国をしのぐ世界最大の工業国になっていた。
1895年から1904年にかけての10年で企業間でさかんに合併が行われるようになり、それまで存在したことのない巨大で複雑な企業組織が生まれた。以前、企業はオーナーによって経営され、主に一つの商品を扱っていたが、20世紀を境にこれが変化した。すなわち、オーナーに雇われた職業経営者が登場し、扱う製品の種類も増えていったのだ。
職業経営者はオーナー経営者と異なり、「最新の経営手法を取り入れている」「業績を上げている」ということを常に周囲に示さなければならないプレッシャーにさらされていた。GM(ゼネラルモーターズ)の伝説的人物で会長を務めたアルフレッド・P・スローンは、非オーナー経営者として初めて経営手腕で有名になった。彼は事業部をセグメント化することで、動きの遅いフォード・モーターを追い抜くだけのスピードを獲得した。設立まもないマッキンゼーにとってスローンのような職業経営者は典型的なクライアントだった。
GE(ゼネラル・エレクトリック)、スタンダード・オイル、USスチールなど、当時を代表する大企業が、従来の一元集中的な管理・運営から、部門別・地域別にセグメント化して管理・運営する手法に乗り換えていった。このアメリカ経済における大きなパラダイムシフトが、ジェームズ・マッキンゼーにとってはまたとないビジネスチャンスとなった。
さらに1929年に世界を襲った大恐慌も、マッキンゼーにとっては追い風となった。設立まもないマッキンゼー・アンド・カンパニーは、大恐慌により加速した企業の再編成、合併・買収のためのシナリオ分析にたずさわることで、ビジネスを拡大していったのだ。