リーダーシップは特殊な人が持つ能力ではない

―― 本書では、日本に必要な人材と、マッキンゼーが求める人材は同じだとお書きになられていますね。

 少子高齢化や年金の問題など、現在の日本が抱える課題と、その解決のために何が必要かということは多くの人がわかっていると思います。しかし、解くべき課題がわかっていても、それを実現するためのリーダーシップを取れる人がいないため、課題解決が進まないのが現状です。

 マッキンゼーがクライアント企業に呼ばれるケースも、それと同じです。社内でも課題や取るべき方策はわかっているのに、なぜかそれが実現できないからコンサルタントが呼ばれるわけで、そこで求められるのは、わかっているあたりまえの解決策を粛々と確実に実行できる人材です。実際に組織を動かしていくリーダーシップが必要という意味で、日本に必要な人材とマッキンゼーが求める人材が同じだと言っています。

―― 政治家にリーダーシップが必要なのはわかりますが、日本人全員にリーダーシップが必要だという伊賀さんの主張はややオーバーではないかと思ってしまいます。

 日本人は、リーダーシップを一部の人にしか必要ない特殊なものと誤解しています。日本航空の再建や原発事故の収拾など、国家的ビッグプロジェクトのリーダーだけがリーダーだと思っているところがあります。ところが、あれだけたいへんな課題の成否が、1人のリーダーだけに依存することなどありえません。現場にある夥しい数の小さな課題に対して、自主的にリーダーシップを発揮する人を組織の中にどれだけ増やせるか。それが問題解決にとってより重要なことなのです。

 何かを変えようとするときには、たくさんの細かい仕事が発生します。それをすべて1人のリーダーがやろうとしても、現実には無理な話です。ある課題には1人がリーダーシップを取り、別の課題には別の人がリーダーシップを取る。おっしゃる通り、100%必要かと問われればそうではないのかもしれませんが、相当数の人がリーダーシップを取ることができて初めて、大きな変革を実現することができるのです。全体のトップに立つリーダーにとっては、組織現場におけるそれぞれの人のリーダーシップの必要性を理解してもらうことが重要な仕事になると思います。