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当たり前だが、投資する主語が変わると方針から何から異なる。ヤフーというインターネットの巨大企業の視点から、自ずと投資戦略は規定される。ずば抜けた存在であること、そしてヤフーとの組み合わせに意味があることが、求められる。このあたりは、小澤氏の明快さでもある。
小澤流からは、二つの示唆が得られる。
一つは、筆者の古巣のGeneral Atlanticなど一部の米国ベンチャーキャピタリストがやってきた、テーマを起業家に提示して事業を起ち上げる手法が日本でも有効なことだ。しかし、いま日本ではテーマ提示型で起業させるメンターは少ない。こういったメンターがもっと欲しいところだ。
もっとも、このインタビューで分かるように、事業テーマを生み出すのは相応の努力や工夫が求められる。起業家にとっても、小澤氏の話は刺激になるだろう。本連載第5回でも指摘したが、事業アイデアをぱっと思いついた段階では、それ自体に価値がないことが多く、ビジネス機会として捉えられるようテーマを練り上げることが求められる。
もう一つは、テーマを任せる人材だ。米国だと、既にベンチャーを成功させた起業家や実績のあるエース級のマネジャーなど、みるからにスゴイ人材にテーマを示して説得することが通例だ。しかし、小澤氏は「困っている人」など、優秀だがスゴくはない人に起業させ、自分も頑張って育成した。
日本には優秀な人材はいるが、なぜこのテーマなのかと首をかしげることが多く、起業やベンチャーの経験が不足していることが多い。小澤氏の例は、この2点をメンターとの組み合わせで乗り越えることができることを示している。したがって、エコシステム(生態系)として、起業家とメンターの役割分担であり共同作業がいま以上にできれば、起業の成功が増えるのではなかろうか。
もっとも、小澤流が全てだと言う気はない。様々なタイプのメンターが実際にいて、小澤流とは異なる育成方法のメンター/投資家がベンチャーの成功を生んでいる例もある。試行錯誤や実験を経て、いろいろなアプローチが開発されてこそ、日本が起業大国となる道が開かれるだろう。
また、こうした方法論とともに、小澤氏が実際にやってきたことは、徹底的にやることの大切さをあらためて我々に示している。無難なやり方やガンバレと応援するだけでは、ベンチャーの育成にはならない。支援者側も“起業家的”な姿勢で取り組みたい。