市場が小さくなったのに台数が変わっていない、過当競争のタクシー業界。コストがかかる「無線」を廃止し、スマホアプリに乗り換える事業者も出てきた。さらに、会社の垣根も取り払い、ドライバー個人を呼び出せるアプリも登場。顧客争奪戦がさらに激化している。
タクシー業界は、全盛期の3分の2にまでしぼんでしまった。バブル最盛期だった89年と09年を比較すると、輸送人員は33億人→19億人、営業収入(個人タクシーを含む)は2.58兆円→1.78兆円と落ち込むが、その一方で車両数は25.7万台→26.5万台(個人タクシーはいずれも5.5万台ほど)と変わっていない。縮んだパイを各社が奪い合う構図が浮かび上がる(*1)。
そこに追い討ちをかけるのが、タクシー無線の「デジタル無線」への完全移行だ。2016年5月末で従来のアナログ無線の周波数帯が使えなくなるため、機器の入れ替えが必要になり、その初期費用は1台あたり100万円にもなるといわれる。
日本のタクシー業者の8割以上は、保有車両30台以下の中小・個人事業者だ(図表1)。大手ならデジタル無線の利便性がコストに勝るかもしれないが、中小には負担ばかりが大きく、経営体力をさらに奪うことにもなりかねない。
ならば無線をやめようという動きもある。名古屋市のフジタクシー(タクシー539台で名古屋圏3位)は2011年11月に新たな配車管理システム「SMART」への全面移行を決定し、スマートフォン「SoftBank X02T」500台を導入した。配車センターがGPSを頼りに、ドライバーのスマホに指示を飛ばすしくみだ。デジタル無線と比較して、初期費用・ランニングコストとも半額程度ですむという。
*1:社団法人「全国タクシー・ハイヤー協会」の統計資料による