スマートフォンのGPS機能を利用してタクシーを呼ぶことのできるアプリ「全国タクシー配車」が人気だ。2011年12月のサービス開始から1年を経た現時点で、全国40都道府県の76グループに採用され、タクシー台数1万6534台(業界全体の総車両数25万台として約6.6%。1/10時点)、アプリのダウンロードは50万件、アプリ経由の売り上げは5億円超という規模にまで成長している。
アプリの背後にあるインフラは、日本交通(車両3200台規模の大手事業者)がマイクロソフトのクラウドサービス、アジュールを活用して構築したもので、全国各地の提携タクシー事業者が接続するプラットフォームとして運営されている。
各タクシー事業者は、同様なシステムを自社で構築する場合の「10分の1以下」という初期費用で導入でき、あとは1台配車あたりの手数料がかかるだけという、まさしくクラウドの恩恵が、全国の業者に歓迎されたかたちだ。
同じく業界大手の東京無線(車両4500台規模)による「すぐくるタクシー 東京無線版」など、同種のアプリもいくつか存在するが、少なくとも普及度とエリアの広さでは、国内標準アプリの地位にあると見ていいだろう。
「全国タクシー配車」は日時指定予約など、機能の追加や改善をこまめに続けており、たとえば早朝配車の予約など、「電話なら立て続けに断られかねないものがアプリですんなり予約できた」など、ユーザーから利便性を評価する声が寄せられている。
デジタル無線配車システムというインフラをベースに、タクシー配車というこれまで通りのサービスを、乗客と事業者の双方にとってより手軽で便利なものにしたことが、このアプリの肝である。
一方、日本のタクシー業者の8割以上は、保有車両30両以下の中小・個人事業者が占めている。「全国タクシー配車」が全国規模に展開しているとはいえ、地方ごとの大手業者が参加しているのが現状だ。個人を含む中小業者の参加が今後の課題となる。
その点で対照的なサービスがアメリカにある。「Uber」というリムジンタクシー手配サービスで、個人事業者でもiPhoneひとつで契約ドライバーになることができる手軽さが特徴だ。そのしくみを利用して開業する人も増えているという。ある契約ドライバーへのインタビューによれば、料金の80%ほどが運転手の取り分になるのだという。
Uberの売りはお抱え運転手のような高級感あるサービスにあり、東京進出も計画中であることが11月に明らかにされた。サービスの質の高い日本では差別化が難しい部分もあるが、ドライバー個人が最高五つ星で評価される点がユニークであり、前述のように個人でも契約ドライバーになれる点も強みだ。
日本でのタクシー利用は、いわゆる「流し」が8割で、電話配車が2割という現状があり、「“拾う”から“選ばれる”時代」(日本交通・川鍋一朗社長)へ流れを変え、リピーターを増やしたいという事情もある。
その点でUberの個人評価システムは有用である。「英会話OK」「車椅子対応」といった具体的な評価項目なども確認できれば、少々高くても使おうという気にもなるだろう。「あの運転手さんにまたお願いしたい」という要望も、日時指定予約機能と組み合わせれば、取り入れることもできるはずだ。
2016年6月には、タクシー無線がデジタル無線に完全移行する。その機材更新需要もにらみ、スマホ向けの配車サービスは、事業者、乗客双方にとってより利便性の高いしくみを求めて、競い合っていくことになるだろう。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))