デール・カーネギーがおもに論じているのは、人をうまく扱う方法、つまり、人が自分のことを好きになるようにし、人に嫌われずに自分のしてほしいことをさせる方法である。彼のいちばん有名な著書、『人を動かす』(How to Win Friends and Influence People、1936年)は、これを実践するための原則を常識の範疇を超えない助言として提言している。たとえば、決して人を批判したり攻めたり悪く言ったりしないこと、人に心から感謝すること、人をやる気にさせるにはその人の中にある具体的な欲望を刺激すること、といったものである。

人生と業績

 デール・カーネギー(1888~1955年)は貧しい農家の出身で、大学時代には数々の苦労を強いられた。彼は有名になるにはどうしたらいいかと考え、弁論コンテストに参加するようになった。初めの方こそ成績は芳しくなかったが、やがて参加するコンテストすべてで優勝するようになった。大学卒業後、しばらくセールスマンとして働き、会社で最優秀の成績を収めたが、その後、俳優として食べていこうと決心した。しかし、これもまた誤ったスタートだった。自分の事業を立ち上げようと舞台をあきらめるが、結局小説を書くことを決意し、生活のために夜間は教鞭を執ることにした。

 カーネギーはニューヨークYMCAでビジネスマンのための話し方講座を始めたが、定額の給与の支払いは断られ、完全なコミッション制であった。しかしその講座はやがて人気を博し、彼に大成功をもたらした。実際その講座は大盛況だったので、彼はその講座の内容を、話し方という当初の領域を超えて人間関係全般に言及した人気シリーズ本にすることができた。対人関係で成功するシンプルな法則を提示し、彼自身や他の人の経験や、ルーズベルトやリンカーンといった歴史上の人物のストーリーを例に取って説明し、シリーズは次々に大ベストセラーとなった。カーネギーはその後自分の考えをさらに広めるためにデール・カーネギー協会を設立した。彼の死後40年以上が経過した1997年になっても、彼を世界的に有名にした本『人を動かす』が依然ドイツのベストセラーに名を連ねていた。