夏が稼ぎ時の清涼飲料業界だが、花王もここにビジネスチャンスを見出している。といっても花王の緑茶飲料「ヘルシア」の拡販ではない。花王が売り込みをかけているのは、飲料の製造ラインで使う洗浄剤のことだ。
飲料の充填工程では、アップルやピーチなどフレーバーを変えるたびに、機具を洗浄するのが一般的だ。ところが、配管の留め具(樹脂製)などににおいが染み付き、一晩中、水で洗い流し続けなければならない。
ところが、花王が新開発した洗浄剤は、フレーバーと相性のいい溶剤を界面活性剤で乳化したもので、従来は洗浄に10時間以上かかっていたところが、6時間弱などと半減できるという。飲料メーカーにとっては大幅なコストダウンが可能だ。
これに大きく貢献したのが加工・プロセス開発研究所の数理学の研究者だ。洗浄時間が半減できるプロセスを数理学的に検証・シミュレーションし、その内容を一般に公表した。
「どの成分がどのようなメカニズムで効果を発揮しているのかを数理的に裏づけた。研究発表を行なったのは、技術は広く知られてこそ、さらに発展するからだ」と、この研究にも携わった恩田智彦 加工・プロセス開発研究所主席研究員は強調する。
今年春に技術発表を行なってからは、「自社で飲料の製造ラインを持っているメーカーから受託生産専門のメーカーまで、幅広く売り込みをかけている」(花王幹部)が、反応は上々だ。
家庭用ではトップシェアを誇る花王だが、業務用でもじわじわシェア拡大を狙っている。コストというメーカーが最も神経を尖らせている部分に着目し、研究成果を公表しながら拡販につなげていくアプローチは、花王ならではといえそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 大坪稚子)