今回は、かつての部下の自殺をきっかけにカウンセリングに関心を持ち、現在はメンタヘルスケアを行う会社(株式会社セーフティネット)を経営する山崎敦さんに取材を試みた。
山崎さんは十数年前、自衛隊に勤務している頃に部下を失った。そのときから、精神科医や専門家などが唱える「自殺する前には、本人が何らかのサインを送っていたはず。なぜ、それに気がつかなかったのか」という言葉に疑問を感じている。
山崎さんにその思いを尋ねていくと、多くの企業が抱え込む人事マネジメントの問題点が浮き彫りになると筆者は考えた。部下が自殺すると、職場の実態が丁寧に調査されないまま上司や周囲の責任が問われる風潮がある。そして、長い労働時間や成果主義などの影響がやり玉に上げられる。
筆者は、まずは死に至った際の職場の状況について、関係者などに詳しくヒアリングをしていくことが優先されるべきと思う。その際、上司や同僚らの責任が厳しく吟味されることは仕方がないことだが、結論を決めつけずにあらゆる方向から検証がなされるべきだ。そうでないと真相はわからず、再発防止にはなり得ないのではないだろうか。
山崎さんとのやりとりについては、よりニュアンスを正確に伝えるため、インタビュー形式とした。取材の内容は、実際に話し合われた内容の9割方を載せた。
自殺のサインを見つけられなかったのか?
残された者にのしかかる酷な問いかけ
山崎 たとえば、精神科医が自殺をした人の周囲にいる人に、「なぜ、死に至る前に自殺のサインに気がつかなかったの? 何らかのサインを送っていたはず」と問いかけることがある。これらは、実際に周囲にいる人にとって、随分と酷なことだと思う。